モータージャーナリスト兼コラムニストの二階堂仁です。 今回も多く寄せられている質問にお答えしていきます。
この記事を読んでいる方は、憧れのベントレーを中古で手に入れたいけれど、購入後の車検や維持、特に正規ディーラー以外での購入に関する不安があるのではないでしょうか。 私自身も複数のベントレーを所有し、正規ディーラーと専門工場の両方でメンテナンスを経験してきたので、その気になる気持ちはよくわかります。

引用 : ベントレーHP
この記事を読み終える頃には、中古ベントレーの車検に関する疑問や、正規ディーラー以外での購入という選択肢についての不安が解消されているはずです。
記事のポイント
- 中古ベントレーの日本国内での車検は全く問題なく可能
- 車検費用は依頼先と車両状態で大きく変動
- 正規ディーラー購入のデメリットは価格以外の側面も存在
- 信頼できる専門工場との出会いが賢いベントレーライフの鍵

中古ベントレーは日本で車検を受けられるのか?徹底解説
結論から申し上げましょう。 中古で購入したベントレー、たとえそれが並行輸入車であったとしても、日本国内で車検を受けることは全く問題ありません。 これは道路運送車両法という法律で定められた保安基準を満たしているかどうかを検査する制度であり、車両の購入経路(正規ディーラーか、中古車販売店か、個人売買か)によって車検が受けられなくなるということは一切ないのです。

引用 : ベントレーHP
しかし、多くの人が不安に感じるのは「どこで、いくらで、どのように車検を受ければいいのか?」という点でしょう。 私自身、最初にベントレーを手に入れたときは同じ疑問を持ちました。 ここでは、私のジャーナリストとしての知識と、一人のオーナーとしての実体験を交えながら、その疑問を一つひとつ解消していきます。
ベントレーの車検を受けられる場所とそれぞれの特徴
ベントレーの車検を受けられる場所は、大きく分けて「正規ディーラー」と「ベントレーの整備に対応可能な専門工場」の2つです。 それぞれのメリット・デメリットを理解することが、賢い選択の第一歩です。
安心とブランドの正規ディーラー
正規ディーラーで車検を受ける最大のメリットは、何と言ってもその「安心感」と「ブランド価値の維持」です。 メーカーの正規トレーニングを受けた専門テクニシャンが、最新の専用診断テスター(VASやODIS)を用いて隅々までチェックしてくれます。 交換部品はもちろん全て純正品。 整備記録簿に正規ディーラー印が押されることで、将来的に売却する際の査定額にも良い影響を与える可能性があります。
一方でデメリットは、やはり「費用」です。 車検基本料や工賃(レバーレート)は専門工場に比べて高めに設定されています。 また、整備方針として予防整備が重視される傾向が強く、まだ使える部品でもメーカー推奨の交換時期が来ていれば交換を勧められることが多いため、結果的に総額が高くなるケースが少なくありません。
費用と柔軟性の専門工場
ベントレーのような特殊な車両の整備を得意とする専門工場は、正規ディーラーに次ぐ有力な選択肢です。 最大のメリットは「費用の柔軟性」です。 ディーラーよりも工賃が安価な場合が多く、交換部品に関しても、純正品だけでなく、OEM品(純正品と同じ工場で作られたメーカーロゴのない部品)や優良な社外品、場合によってはリビルト品(再生部品)など、オーナーの予算や希望に応じた提案をしてくれます。
また、オーナーとの対話を重視してくれる工場が多く、「今回は最低限で通したい」「この部分は徹底的に見てほしい」といった個別の要望にも柔軟に対応してくれやすいのが特徴です。 デメリットとしては、工場の技術力や経験にばらつきがあること、そして最新モデルの複雑な電子制御システムに対応する診断テスターを完備していない場合があることです。 信頼できる工場を見極める「目」がオーナーに求められます。
ユーザー車検は現実的か?
ご自身で運輸支局に車両を持ち込むユーザー車検も制度上は可能ですが、ベントレーに関しては全くお勧めできません。 2.5トン近い巨体を支えるブレーキの制動力や、ヘッドライトの光軸調整など、専門的な設備と知識がなければ保安基準をクリアするのは極めて困難です。 また、万が一不合格になった場合、その場で修理することはできず、結局は専門の工場に持ち込むことになり、二度手間になってしまいます。
気になるベントレーの車検費用、その内訳と相場
「ベントレーの車検は100万円を超える」といった噂を耳にしたことがあるかもしれませんが、これは必ずしも事実ではありません。 確かに高額な修理が伴えばその可能性はありますが、車両の状態が良ければ、もっと現実的な費用で済ませることも可能です。 ここでは、費用の内訳と具体的な相場を見ていきましょう。

引用 : ベントレーHP
必ずかかる法定費用
これはどこで車検を受けても同額で、車両の重量や年式によって決まります。 例えば、代表的なモデルであるコンチネンタルGT(車両重量約2.4トン)の場合、以下のようになります。
費用項目 | 金額(目安) | 備考 |
---|---|---|
自動車重量税 | ¥41,000~¥63,000 | エコカー減税非対象、初年度登録から13年、18年経過で増額 |
自賠責保険料 | ¥17,650 | 24ヶ月契約 |
印紙代 | ¥2,300 | 認証工場の場合 |
合計 | 約¥60,950~ |
※金額は2025年現在の目安です。 制度改定により変動する可能性があります。
車検基本料・整備費用
法定費用に加えて、車検の点検・整備・代行手数料がかかります。 これが依頼先によって大きく変わる部分です。
- 正規ディーラー: 150,000円~300,000円程度。 メーカー指定の24ヶ月点検項目を全て実施するため、高額になる傾向があります。
- 専門工場: 80,000円~150,000円程度。 基本的な点検項目に絞るか、ディーラー準拠の点検を行うかで料金が変わります。
部品交換費用
車検で最も費用を左右するのが、消耗品や劣化した部品の交換です。 特にベントレーは各部品が高価なため、交換点数が増えると総額が一気に跳ね上がります。
- エンジンオイル・フィルター交換: 50,000円~100,000円(W12エンジンはオイル量が多い)
- ブレーキパッド交換(前後): 150,000円~300,000円
- ブレーキディスク交換(前後): 200,000円~400,000円
- タイヤ交換(4本): 200,000円~500,000円(20インチ以上の大径タイヤは高価)
- エアサスペンション(1本): 300,000円~500,000円(故障時の交換)
これらの費用を合計すると、車両に大きな問題がなく、オイル交換程度の軽微な整備で済んだ場合、総額は20万円~40万円程度に収まることが多いでしょう。 一方で、ブレーキ周りやタイヤ交換が重なると、50万円~80万円を超えることも珍しくありません。
【体験談】私のコンチネンタルGT、実際の車検費用
ここで、私が所有する2014年式のコンチネンタルGT V8 Sの車検実録をお話ししましょう。 前回の車検は、懇意にしているベントレー専門の工場に依頼しました。 走行距離は約6万km、特に不具合は感じていませんでしたが、予防整備も含めて相談しました。
【車検見積もり(専門工場)】
- 法定費用: ¥58,750
- 車検基本・点検整備料: ¥120,000
- エンジンオイル・フィルター交換: ¥75,000
- ブレーキフルード交換: ¥20,000
- 前後ワイパーブレード交換: ¥18,000
- エアコンフィルター交換: ¥22,000
- リアブレーキパッド交換(OEM品): ¥90,000
- 合計: ¥403,750
リアのブレーキパッドが交換時期だったため、この金額になりました。 もし正規ディーラーに依頼し、同じ作業を全て純正品で行った場合、おそらく50万円~60万円程度になったのではないかと推測しています。 このように、信頼できる専門工場と相談しながら整備内容を決めることで、費用をコントロールすることが可能なのです。
並行輸入車の車検で注意すべき点
正規ディーラーが輸入した車両ではなく、海外から直接輸入された並行輸入車の場合、最初の車検(新規登録)や継続車検でいくつか注意点があります。
- 灯火類: ヘッドライトのカットラインが右側通行用(右上がり)になっている場合、日本の左側通行用に改善(調整または交換)が必要です。 また、ウインカーの色が赤色の場合も橙色への変更が求められます。
- 排ガス検査: 日本の排出ガス基準に適合していることを証明する「ガスレポ(自動車排出ガス試験結果証明書)」が必要です。 これがない場合、実測検査を受ける必要があり、時間と費用がかかります。
- 各種警告灯: メーター内の警告灯が本国仕様のままだと、日本の保安基準に適合しない場合があります。
これらの改善作業には、数万円から数十万円の追加費用がかかる可能性があります。 並行輸入車の購入を検討する場合は、販売店がこれらの改善作業をしっかり行った上で納車してくれるか、または購入後に対応してくれる信頼できる工場があるかを確認することが非常に重要です。
正規ディーラー購入に対するデメリットと中古車選びの極意
新車であれば正規ディーラー以外に選択肢はありませんが、中古車となると話は別です。 認定中古車という形で正規ディーラーから購入する方法もあれば、中古車専業の販売店から購入する方法もあります。 ここでは、価格面以外も含めた正規ディーラー購入のデメリットと、後悔しないための中古車選びのポイントを深掘りしていきます。

引用 : ベントレーHP
正規ディーラー購入の隠れたデメリットとは
多くの人が正規ディーラーのデメリットとして真っ先に挙げるのは「価格の高さ」でしょう。 確かに、手厚い保証や納車前整備が価格に反映されているため、一般的な中古車店よりも割高なのは事実です。 しかし、デメリットはそれだけではありません。
デメリット①:選択肢の限定
正規ディーラーが扱う認定中古車は、自社で新車販売し、下取りや買い取りで入庫した素性の良い個体が中心です。 これはメリットである反面、市場に出回っている全ての中古車から選べるわけではないため、選択肢が限られるというデメリットにもなります。 希望のボディカラーや内装、特定のオプションが付いた車両を探している場合、ディーラーの在庫だけでは見つからない可能性があります。
デメリット②:サービスの画一性と柔軟性の欠如
正規ディーラーのサービスは高品質で均一化されていますが、それが時に柔軟性の欠如として感じられることがあります。 例えば、購入後のちょっとしたカスタムの相談や、前述したようなOEM部品を使ったコストを抑えた修理の提案などは、基本的に受け付けてもらえません。 全てがメーカーのマニュアルに沿った対応となるため、「オーナーのわがまま」には応えにくいのです。 受付が面倒だと感じるのは、こうした規則に縛られた形式的なやり取りに起因するのかもしれません。
デメリット③:納車までの時間
認定中古車は、契約後に改めてメーカー基準の厳しい納車前点検整備(100項目以上など)を行います。 その過程で部品交換が必要になった場合、国内に在庫がなければ本国からの取り寄せとなり、納車までに1ヶ月以上かかることも珍しくありません。 すぐにでも乗りたい、という気持ちが強い人にとっては、この待ち時間がデメリットに感じられるでしょう。
失敗しない中古ベントレー選びの7つのチェックポイント
では、中古車専門店などでベントレーを選ぶ際には、どこに注目すれば良いのでしょうか。 高価な買い物で失敗しないために、必ずチェックしてほしい7つのポイントを挙げます。

引用 : ベントレーHP
- 整備記録簿の有無と内容: 最も重要な書類です。 特に正規ディーラーでの整備記録がしっかり残っている個体は、適切にメンテナンスされてきた可能性が高く、安心材料になります。 記録簿がない、または内容が不自然な車両は避けるのが賢明です。
- 内外装の状態(特にレザーとウッドパネル): ベントレーの魅力は、その豪華な内装にあります。 シートのレザーに過度なスレやひび割れ、ウッドパネルにクリアの浮きや亀裂がないか、時間をかけてチェックしましょう。 これらの補修は非常に高額になります。
- 電装系の動作確認: パワーシート、ナビゲーション、サンルーフ、エアコン、各種スイッチ類など、動かせるものは全て動かしてみてください。 特に重要なのがエアサスペンションです。 エンジン停止後、しばらくしても車高が明らかに下がっている場合は、エア漏れの可能性があります。
- エンジンとトランスミッション: エンジンを始動し、異音や不自然な振動がないか確認します。 可能であれば試乗させてもらい、スムーズに変速するか、加速時にショックがないかを体感してください。 W12エンジン搭載モデルの場合、低速走行時にギクシャク感がないかもチェックポイントです。
- タイヤとブレーキ: タイヤの製造年と残り溝を確認します。 4本とも新しければ、前オーナーがしっかりお金をかけていた証拠と捉えることもできます。 ブレーキディスクに爪が引っかかるほどの段付き摩耗がないかも確認しましょう。
- 修復歴の確認: 車両の骨格部分を修理した「修復歴車」は、たとえ綺麗に直っていても、将来的に不具合が発生するリスクや、売却時の査定額が大幅に下がるため、避けるべきです。
- 販売店の信頼性: ベントレーの販売実績が豊富で、専門知識を持つスタッフが在籍しているかを確認しましょう。 自社で整備工場(特に認証工場以上)を完備している販売店であれば、購入後のメンテナンスも安心して任せられます。
モデル別にみる中古ベントレーの狙い目と注意点
ベントレーと一口に言っても、様々なモデルが存在します。 ここでは代表的なモデルの中古車市場における特徴と注意点を解説します。
コンチネンタルGT/GTC
2003年の登場以来、ベントレーの主力であり続けるラグジュアリークーペ/コンバーチブル。 中古市場での流通量も最も多く、価格帯も幅広いのが特徴です。
- 狙い目: 2011年以降の後期型。 内外装デザインが洗練され、インフォテインメントシステムも近代化されています。 特に2012年に追加されたV8モデルは、W12よりも軽快な走りと燃費の良さで人気があります。
- 注意点: 2010年以前の前期型は価格が魅力的ですが、エアサスの故障や「ハイマウントストップランプの雨漏り」といった定番のトラブルを抱えている個体が多いので注意が必要です。 購入するなら、対策部品に交換済みかを確認したいところです。
フライングスパー
コンチネンタルGTの4ドアセダン版。 ショーファードリブン(後席に乗る)としての需要も高く、法人ワンオーナーで大切に乗られてきた極上車が見つかることもあります。
- 狙い目: こちらも後期型がおすすめです。 特に後席の居住性や快適装備が向上しており、ファミリーユースも視野に入れるなら満足度は高いでしょう。
- 注意点: その広大な室内空間ゆえ、レザーやウッドパネルの状態が車両の扱われ方を如実に物語ります。 後席の使用感もしっかりチェックしましょう。
ベンテイガ
ベントレー初のSUV。 圧倒的な存在感とパフォーマンスで人気を博し、中古車価格も高値で安定しています。
- 狙い目: 登場から数年が経過し、初期モデルの価格がこなれてきました。 新車では手が出なかった層にも現実的な選択肢となりつつあります。
- 注意点: 最新の電子制御デバイスが満載のため、万が一の故障は修理費用が高額になりがちです。 購入する際は、第三者機関の保証を付けられる販売店を選ぶと安心です。
購入後の維持費シミュレーション(車検以外)
ベントレーを所有する上で、車検と同じくらい気になるのが年間の維持費でしょう。 税金や保険、そして突発的な修理に備えて、ある程度の予算を確保しておく必要があります。
費用項目 | 年間費用(目安) | 備考 |
---|---|---|
自動車税 | ¥87,000~¥110,000 | 4.0L超~6.0L超。13年経過で約15%重課 |
任意保険 | ¥100,000~¥250,000 | 年齢、等級、車両保険の有無で大きく変動 |
ガソリン代 | ¥200,000~¥400,000 | 年間走行5,000km、燃費4~6km/L、ハイオク180円/Lで計算 |
駐車場代 | 地域による | 月極駐車場の料金 |
メンテナンス・修理積立金 | ¥200,000~ | 消耗品交換や突発的な故障に備える費用 |
年間合計(駐車場代除く) | 約¥587,000~ |
これはあくまで最低限のシミュレーションです。 実際には、これに加えてタイヤ交換(4年ごと)、バッテリー交換(3~4年ごと)、そして予期せぬ故障修理費がかかる可能性があります。 「年間100万円程度の維持費は見ておいた方が精神的に楽」というのが、多くのベントレーオーナーに共通する感覚ではないでしょうか。
まとめ
今回のレビューでは、中古ベントレーの車検と購入に関する様々な疑問について、私の経験を交えながら解説してきました。
要点をまとめると、
- 中古ベントレーの車検は、正規ディーラーでも専門工場でも問題なく受けられる。
- 費用は車両の状態と依頼先によって大きく変わるため、信頼できる工場と相談しながら進めるのが賢明。
- 正規ディーラーでの購入は安心感が大きい反面、価格や選択肢、サービスの柔軟性といった面でデメリットも存在する。
- 中古車専門店で購入する場合は、整備記録簿や車両の状態を自分の目で厳しくチェックし、信頼できる販売店を選ぶことが何よりも重要。
ということです。
ベントレーという車は、確かに手軽に維持できる車ではありません。 しかし、その圧倒的な存在感、クラフトマンシップが息づく美しい内外装、そして余裕に満ちた走りから得られる満足感は、何物にも代えがたいものがあります。
正規ディーラーという王道を選ぶのも一つの正解ですし、信頼できる専門工場をパートナーとして見つけ出し、二人三脚で理想のベントレーライフを築いていくのも、また素晴らしいカーライフの形です。
この記事が、あなたのベントレーへの扉を開く一助となれば、これほど嬉しいことはありません。 素晴らしい一台と出会えることを、心から願っています。