モータージャーナリスト兼コラムニストの二階堂仁です。 今回も多く寄せられてる質問にお答えしていきます。
この記事を読んでいる方は、ベントレーの「壊れやすい」「修理費が天文学的」という噂が本当なのか、その真相が気になっていることでしょう。 私も実際に複数のベントレーを所有し、様々なトラブルを経験してきたので、購入前に不安になるその気持ちはよくわかります。

引用 : ベントレーHP
この記事を読み終える頃には、ベントレーの故障に関する漠然とした不安や疑問が解消され、ご自身がベントレーオーナーになるべきかどうかの明確な判断基準が持てているはずです。
記事のポイント
- 現代のベントレーが壊れやすいというのは大きな誤解
- 故障しやすい箇所と具体的な修理費用を車種別に解説
- 年間の維持費シミュレーションでわかるリアルな金額
- 故障リスクを抑えて賢くベントレーを選ぶための秘訣

ベントレーは本当に壊れやすいのか?オーナーが語る真相
「ベントレーは壊れやすい」。 これは、まるで都市伝説のように語り継がれている言葉です。 しかし、自動車ジャーナリストとして、そして一人のオーナーとして断言しますが、この言葉は現代のベントレーには必ずしも当てはまりません。
もちろん、国産車と同じ感覚で維持できるほど手軽な車ではありませんが、噂が一人歩きしている部分が大きいのが実情です。 なぜそのような噂が生まれたのか、そして現状はどうなのかを詳しく解説します。

引用 : ベントレーHP
「壊れやすい」という噂が立つ歴史的背景
ベントレーが壊れやすいというイメージが定着したのには、歴史的な背景が大きく関係しています。 特に、1998年にフォルクスワーゲン(VW)グループの傘下に入る前、ロールス・ロイスと兄弟車の関係にあった時代のモデルが、そのイメージの源流と言えるでしょう。
当時のベントレーは、良くも悪くも英国の伝統的な職人技に支えられた少量生産車でした。 手作業による工程が多く、個体差が大きいのは当たり前。 電装系も決して強いとは言えず、オイル漏れなどの細かなトラブルは「付き物」とされていました。 また、部品の供給体制も現代ほど整っておらず、一度故障すると本国から部品を取り寄せるのに数ヶ月かかることも珍しくありませんでした。
このような状況が、「ベントレー=壊れる、修理に時間がかかる」というイメージを強く植え付けたのです。 中古車市場では、今でもこの時代のモデルが流通しており、当時のイメージのまま語られることが少なくありません。
フォルクスワーゲングループ傘下に入ってからの劇的な品質向上
ベントレーの信頼性を語る上で最大の転換点となったのが、1998年のVWグループによる買収です。 VWグループ、特にアウディが持つ最新の生産技術や品質管理手法が導入されたことで、ベントレーの品質は劇的に向上しました。
ドイツ車との部品共通化による信頼性アップ
2003年に登場した初代コンチネンタルGTは、新生ベントレーの象徴ともいえるモデルです。 このモデルは、VWのフラッグシップセダン「フェートン」とプラットフォームを共有しており、エンジンやトランスミッション、電装系に至るまで、VWやアウディで実績のある信頼性の高い部品が数多く採用されました。
例えば、ナビゲーションやエアコンといった快適装備の操作系は、当時のアウディA8と共通のものが使われています。 これにより、かつてのベントレーが抱えていた電装系の弱点は大幅に改善されました。 エンジンについても、W12気筒という特殊な形式ではありますが、VWグループの厳格な品質基準のもとで製造されており、基本的な耐久性は非常に高いです。
生産管理の近代化
英国クルー工場の生産ラインも近代化され、かつてのような個体差は大幅に減少しました。 もちろん、ウッドパネルやレザーシートの縫製など、今なお職人の手作業に頼る部分は多く残されていますが、それはあくまで品質を高めるためのものであり、車の基本性能や信頼性を左右する部分ではありません。
このように、VWグループ傘下に入ってからのベントレーは、英国の伝統的なクラフトマンシップと、ドイツの最新技術・品質管理が見事に融合した、全く新しいラグジュアリーカーへと生まれ変わったのです。
新車と中古車で大きく異なる故障リスク
ベントレーの故障リスクを考える上で、新車で購入するのか、中古車で購入するのかは非常に重要なポイントです。

引用 : ベントレーHP
新車の場合 新車で購入する場合、3年間の新車保証が付帯します。 この期間内に発生した製造上の不具合については、基本的に無償で修理を受けることができます。 また、有償の延長保証プログラムに加入すれば、最長で7年まで保証を延長することも可能です。 そのため、新車から乗るオーナーが「壊れてどうしようもない」という状況に陥ることは、まず考えられません。
中古車の場合 一方、中古車の場合は注意が必要です。 特に、保証が切れた低年式のモデルや、メンテナンス履歴が不明な個体は、購入後に高額な修理費用が発生するリスクを伴います。 ベントレーは非常に重量のある車であり、各部品にかかる負担は国産車の比ではありません。 エアサスペンションやブレーキ、ブッシュ類といった足回りの部品は、年数や走行距離に応じて確実に劣化していきます。 これらの部品を適切なタイミングで交換してこなかった個体は、購入後にトラブルが頻発する可能性があります。
結論:現代のベントレーは「壊れやすい」は誤解
以上の点を総合すると、「現代のベントレーは壊れやすい」という言葉は、過去のイメージに基づいた誤解であると言えます。 特にVWグループ傘下で製造された2003年以降のモデルに関しては、同時代のドイツ製高級車と同等か、それ以上の信頼性を持っていると私は評価しています。
ただし、冒頭でも述べた通り、国産車と同じ感覚で乗れる車でないことも事実です。 部品一つひとつの価格が高価であり、整備にも専門的な知識と設備が必要とされます。 「壊れにくい」ことと「維持費が安い」ことは、全く別の話なのです。 この点を理解せずに購入すると、「こんなはずではなかった」と後悔することになるでしょう。
【車種別】ベントレーのよくある故障箇所と修理費用
ここでは、実際に私の経験や、多くのオーナーから寄せられる相談をもとに、ベントレーのモデルでよく見られる故障箇所と、その修理にかかる費用の目安を具体的に解説していきます。 もちろん、個体の状態や修理を依頼する工場によって費用は変動しますが、一つの目安として参考にしてください。

引用 : ベントレーHP
全モデル共通で注意すべきポイント
まずは、コンチネンタルGT、フライングスパー、ベンテイガなど、多くのモデルに共通して発生しやすいトラブルです。
エアサスペンションの故障と修理費用
2.5トン近い車重を支えるエアサスペンションは、ベントレーの乗り心地の要であると同時に、最も消耗しやすい部品の一つです。
- 症状: 駐車中に車高が片側だけ下がる、警告灯の点灯、乗り心地の悪化(ゴツゴツ感)など。
- 原因: エア漏れ(エアストラット本体、バルブブロック、ホースの劣化)、コンプレッサーの故障。
- 修理費用:
- エアストラット交換(1本あたり):約30万円~50万円
- コンプレッサー交換:約25万円~40万円
- バルブブロック交換:約15万円~25万円
エア漏れを放置すると、車高を維持しようとコンプレッサーが作動し続け、最終的にコンプレッサー本体も故障してしまいます。 そうなると修理費用が一気に跳ね上がるため、「駐車すると少し車高が下がる気がする」といった初期症状を見逃さないことが重要です。
電子制御システムのトラブル
現代のベントレーは、数多くのECU(エレクトロニック・コントロール・ユニット)によって制御されています。 これらの電子部品が、予期せぬトラブルを引き起こすことがあります。
- 症状: 各種警告灯の点灯、ナビゲーションやオーディオの不具合、パワーウィンドウの作動不良、キーレスエントリーの不調など。
- 原因: センサーの故障、ECU本体の不具合、バッテリー電圧の低下など。
- 修理費用:
- 各種センサー交換:約5万円~15万円
- ECU修理・交換:約20万円~(部位によっては100万円以上)
- バッテリー交換:約8万円~15万円
特に注意したいのがバッテリーです。 ベントレーは2つのバッテリー(メインとサブ)を搭載しているモデルが多く、電圧が少しでも低下すると、様々な電装系トラブルを誘発します。 定期的なバッテリー交換は、多くの電子トラブルを未然に防ぐための重要なメンテナンスです。
ブレーキ系統の消耗と交換費用
車重が重いため、ブレーキへの負担は非常に大きいです。 特に、W12気筒モデルや高性能モデルに採用されている大径ブレーキは、消耗品とはいえ交換費用が高額になります。
- 症状: ブレーキ鳴き、ブレーキジャダー(振動)、ブレーキ警告灯の点灯。
- 原因: ブレーキパッド、ブレーキローターの摩耗。
- 修理費用:
- フロントブレーキパッド交換:約10万円~15万円
- フロントブレーキローター&パッド交換:約40万円~70万円
- カーボンセラミックブレーキの場合:ローター交換で200万円以上かかることもあります。
一般的なスチールローターでも、そのサイズと重量から部品代・工賃ともに高額です。 中古車を検討する際は、ブレーキの残量がどのくらいあるか、必ず確認すべきポイントです。
コンチネンタルGT/GTCの特有の故障事例
世界的な成功を収めたコンチネンタルGTシリーズ。 流通台数が多いため、故障事例のデータも豊富です。
W12エンジンのイグニッションコイル・プラグトラブル
6.0L W12気筒エンジンは非常に頑丈ですが、点火系は消耗品です。
- 症状: アイドリングの不調、エンジンの振動、加速不良、チェックエンジンランプの点灯。
- 原因: イグニッションコイル、スパークプラグの寿命。
- 修理費用: 12気筒分の交換となるため、部品代・工賃ともに高額になります。
- イグニッションコイル&プラグ全数交換:約30万円~50万円
12本のうち1本が故障しても、工賃を考えると全数交換が推奨されるケースが多いです。
バキュームホースの劣化
エンジンルーム内の熱などの影響で、ゴム製のバキュームホースが劣化し、亀裂が入ることがあります。
- 症状: エンジン不調、アイドリング不安定、チェックランプ点灯。
- 原因: ホースの亀裂によるエア吸い。
- 修理費用: ホース自体は安価ですが、交換にはエンジンを下ろす必要がある場合も。
- 軽微な場合:約5万円~
- エンジン脱着が必要な場合:約50万円~100万円以上
場所によっては非常に厄介なトラブルで、工賃が高額になる代表例です。
フライングスパーの特有の故障事例
コンチネンタルGTの4ドア版であるフライングスパーは、基本的なメカニズムを共有しているため、故障箇所も共通する部分が多いです。 それに加え、後席の快適装備に関連するトラブルが見られます。
- 症状: 後席エアコンの不調、後席シート調整機能の故障、リアエンターテインメントシステムの不具合など。
- 原因: 各種スイッチ、モーター、コントロールユニットの故障。
- 修理費用: 部位によりますが、約10万円~50万円程度かかる可能性があります。
ショーファードリブン(運転手が運転する車)として使われることも多いフライングスパーならではの注意点です。
ベンテイガの特有の故障事例
ベントレー初のSUVであるベンテイガは、比較的新しいモデルのため、経年劣化による定番の故障というのはまだ少ないです。 しかし、その先進的な装備ゆえのトラブル事例も報告されています。
- 症状: 警告灯の点灯、乗り心地の異常。
- 原因: 48V電源を利用したアクティブアンチロールバー(ベントレーダイナミックライド)システムの不具合。
- 修理費用: システムが複雑なため、修理には高度な診断技術が必要とされ、費用も高額になる傾向があります。
- 関連部品の交換:約50万円~
ベンテイガはオフロード走行も可能な設計ですが、電子制御の塊であるため、トラブルシューティングは正規ディーラーや最新設備を持つ専門工場でないと難しいでしょう。
修理費用を抑えるための賢い選択肢
ここまで見てきたように、ベントレーの修理費用は決して安くありません。 しかし、修理を依頼する場所を賢く選ぶことで、費用を抑えることは可能です。
- 正規ディーラー: 最新の診断機と豊富な情報、純正部品による修理で安心感は最も高いです。ただし、工賃や部品代は最も高額になる傾向があります。保証期間内や、原因不明の難解なトラブルの場合はディーラーが最善の選択です。
- ベントレー専門の整備工場: ディーラー出身のメカニックが在籍していることも多く、専門知識が豊富です。OEM部品(純正同等品)や優良な中古部品、場合によっては修理(リペア)といった選択肢を提案してくれるため、ディーラーよりも費用を抑えられることが多いです。
- 一般的な輸入車整備工場: 簡単なオイル交換やタイヤ交換程度であれば対応可能な工場もありますが、重整備や電子系の診断は断られるケースもあります。
信頼できる専門工場を「主治医」として見つけておくことが、ベントレーと賢く付き合っていく上で最も重要なことかもしれません。
ベントレーの維持費は年間どれくらい?
故障した際の修理費用だけでなく、所有しているだけでかかる年間の維持費も気になるところでしょう。 ここでは、代表的なモデルであるコンチネンタルGT(V8モデル)を例に、年間の維持費をシミュレーションしてみます。 ※あくまで目安であり、走行距離や車両の状態、駐車場の場所によって大きく変動します。

引用 : ベントレーHP
項目 | 年間費用の目安 | 備考 |
---|---|---|
自動車税 | ¥66,500 | 4.0L V8エンジンの場合(毎年) |
自動車重量税 | ¥25,000 | 約2.3トンの場合(車検時支払額の年割) |
自賠責保険料 | ¥10,000 | (車検時支払額の年割) |
任意保険料 | ¥150,000~¥300,000 | 年齢、等級、車両保険の有無による |
車検費用 | ¥150,000 | 法定費用+基本整備料(2年ごとの年割) |
燃料代 | ¥300,000 | 年間8,000km、燃費5km/L、ハイオク190円/Lで計算 |
駐車場代 | ¥360,000 | 月額30,000円で計算 |
メンテナンス費用 | ¥100,000 | エンジンオイル、タイヤ、ブレーキパッド等の消耗品代 |
合計(年間) | ¥1,161,500~ | これに加えて、突発的な修理費用がかかる可能性 |
表を見てわかる通り、何も故障がなくても、年間120万円程度の維持費は見込んでおく必要があります。 W12モデルになれば自動車税は上がり、燃費も悪化するため、さらに高額になります。 このランニングコストを許容できるかどうかが、ベントレーオーナーになるための現実的なハードルと言えるでしょう。
故障リスクを抑えて賢くベントレーに乗るためのポイント
最後に、これからベントレーの購入を検討している方へ、故障のリスクを最小限に抑え、充実したベントレーライフを送るための具体的なポイントをいくつかご紹介します。 これは、私が常に心がけていることでもあります。
信頼できる個体の選び方(認定中古車のメリット)
中古車でベントレーを選ぶ際は、価格の安さだけで飛びつかず、個体のコンディションを最優先に考えるべきです。
メンテナンス履歴の確認
最も重要なのは、これまでのメンテナンスが正規ディーラーや信頼できる専門工場で、定期的に行われてきたかどうかです。 記録簿がしっかりと残っている個体を選びましょう。 特に、先述したエアサスやブレーキといった高額な消耗品が、いつ交換されたかを確認することは必須です。
ベントレー認定中古車という選択肢
予算に余裕があれば、「ベントレー認定中古車」は非常に賢い選択です。 正規ディーラーの厳格な基準(100項目以上の点検・整備)をクリアした車両のみが認定され、1年間の保証が付帯します。 この保証は、新車保証に準ずる手厚い内容であり、購入後の万が一のトラブルにも安心して対応できます。 一般の中古車よりは価格が高くなりますが、その価格差は「安心料」と考えることができるでしょう。
定期的なメンテナンスの重要性
ベントレーは、乗りっぱなしが許される車ではありません。 たとえ走行距離が少なくても、油脂類は時間とともに劣化します。 最低でも1年に1回、できれば半年に1回は、エンジンオイルの交換をはじめとする定期的な点検を専門工場で受けることを強くお勧めします。 定期的な点検は、大きなトラブルが発生する前の予兆を発見し、「予防整備」を行う絶好の機会です。 結果的に、トータルの修理費用を抑えることにつながります。
信頼できる主治医(専門工場)を見つける
正規ディーラー以外にも、ベントレーの整備を得意とする優れた専門工場は全国に存在します。 購入前にそうした工場を探しておき、購入相談からアフターメンテナンスまで、一貫して任せられる「主治医」を見つけることができれば、これほど心強いことはありません。 良い工場は、オーナーの予算や車の使い方に合わせて、様々な修理プラン(純正部品、OEM部品、リビルド品など)を提案してくれます。
まとめ
今回のレビューでは、「ベントレーは壊れやすい」という噂の真相から、具体的な故障事例、修理費用、そして賢い付き合い方まで、私の経験を交えながら詳しく解説してきました。
結論として、VWグループ傘下で製造された現代のベントレーは、決して「壊れやすい車」ではありません。 しかし、その卓越したパフォーマンスと快適性を維持するためには、相応のコストと手間がかかることもまた事実です。
ベントレーという車は、単なる移動手段ではありません。 重厚なドアを開け、ウッドとレザーに包まれた空間に身を置く。 そして、圧倒的なトルクで巨体を滑るように加速させる。 その体験は、何物にも代えがたい特別なものです。
この記事で得た知識を元に、ご自身のライフスタイルや予算と照らし合わせ、ぜひ後悔のない判断をしてください。 しっかりとメンテナンスされたベントレーは、きっとあなたの人生を豊かにしてくれる、最高のパートナーになるはずです。