モータージャーナリスト兼コラムニストの二階堂仁です。 今回も多く寄せられてる質問にお答えしていきます。
この記事を読んでいる方は、20年以上の時を経て復活を遂げた新型プレリュードの価格がなぜこれほど高いのか、そしてその価格に見合うだけの価値が本当にあるのか、非常に気になっていることでしょう。 私自身、歴代のプレリュードを乗り継いできた一人として、その衝撃的な価格設定には驚きを隠せませんでしたし、皆様が抱く疑問や不安は痛いほどよくわかります。

引用 : HONDA HP (https://global.honda/jp/news/2025/4250731.html)
しかし、ご安心ください。 この記事を読み終える頃には、新型プレリュードの強気な価格設定の背景にあるホンダの確固たる戦略と、この車が秘める真の価値についての疑問が、すっきりと解決しているはずです。
記事のポイント
- 新型プレリュードの衝撃的な価格とその詳細な内訳
- シビックタイプR譲りの高性能ハードウェアという血統
- 新開発ハイブリッドと「S+シフト」がもたらす革新的な走り
- 価格に見合う価値の考察と購入前に知るべき7つの注意点

新しい車に乗り換える際、今乗っている愛車をどれだけ高く売却できるかは、次の車の選択肢にも大きく影響します。
私自身、一括見積もりサイトを活用したことで、ホンダヴェゼルからレクサスRXに乗り換えることができました。
新型プレリュードの価格設定|なぜこれほど高額になったのか
多くのファンが復活を待ち望んだプレリュード。 しかし、そのベールを脱いだ姿とともに提示された価格は、往年のファンだけでなく、多くの自動車愛好家たちに衝撃を与えました。 ここでは、なぜ新型プレリュードがこれほど高額な設定となったのか、その背景を多角的に、そして深く掘り下げていきます。

引用 : HONDA HP (https://global.honda/jp/news/2025/4250731.html)
衝撃の車両本体価格617万9,800円!ワングレードという強気な戦略
まず驚かされるのが、その価格とグレード構成です。 新型プレリュードは、FFモデルのワングレードのみという、非常に潔い、あるいは強気とも言える構成で登場しました。 車両本体価格は、617万9,800円。
この価格は、多くの人が「スペシャリティクーペ」という言葉から連想する価格帯を大きく超えています。 実際に私がディーラーで作成した見積もりでは、いくつかの必須オプションを含めると、乗り出し価格は680万円を超えました。
項目 | 金額(税込) | 備考 |
---|---|---|
車両本体価格 | 6,179,800円 | – |
メーカーオプション | 82,500円 | ボディカラー(ムーンリットホワイトパール) |
ディーラーオプション | 447,260円 | フロアマット、ドラレコ、コーティング等 |
諸費用 | 123,790円 | – |
合計 | 6,833,350円 | 免税適用後 |
コーティング(約19万円)などを外したとしても、支払総額は660万円台にのぼります。 この価格帯になると、レクサスの上級クーペや、トヨタのフラッグシップであるクラウンも視野に入ってくるため、「高すぎる」という声が上がるのも無理はありません。
では、なぜホンダはこのような価格設定に踏み切ったのでしょうか。 その答えは、この車が背負っている「血統」と「技術」に隠されています。
ベースはシビックタイプRという事実|高性能の代償
新型プレリュードの価格を理解する上で最も重要な要素、それはこの車が**「シビックタイプR」**をベースに開発されているという事実です。
ホンダの公式リリースには、次のように記載されています。
ピュアスポーツの性能を追求したシビックタイプRの車種をベースに、プレリュード専用にセッティングを施し、応答性の良いハンドリングとスムーズな乗り心地を実現。 スペシャリティスポーツにふさわしい車種に仕上げました。
これは単なるプラットフォームの共有を意味するものではありません。 シビックタイプRといえば、世界中のサーキットでFF最速タイムを更新し続ける、ホンダのレーシングスピリットの象徴です。 その心臓部とも言える高剛性なシャシーや、卓越したハンドリングを生み出すサスペンションジオメトリーを受け継いでいるのです。
さらに、プレリュードには以下の専用装備が奢られています。
- アダプティブ・ダンパー・システム:路面状況や運転操作に応じて、四輪それぞれのダンパーの減衰力を瞬時に、かつ緻密に制御。これにより、スポーティーな走りとしなやかな乗り心地という、相反する要素を高次元で両立させています。
- Brembo(ブレンボ)製大容量フロントブレーキ:言わずと知れた高性能ブレーキの代名詞。タイプR譲りのストッピングパワーは、ハイブリッド化による重量増に対応し、絶対的な安心感をもたらします。
- ノイズリデューシングタイプの19インチ大径ホイール:剛性を高めながら、ロードノイズを低減する特殊な構造を持つホイール。走りの性能と静粛性の両立に貢献しています。
これらのハードウェアは、いずれも高性能・高コストな部品ばかりです。 単にシビックのノーマルグレードをベースにするのではなく、頂点であるタイプRを選んだ時点で、プレリュードの価格が一定の水準を超えることは運命づけられていたと言えるでしょう。 ホンダは、プレリュードを単なる「雰囲気の良いクーペ」ではなく、「走りの本質を知る大人のためのスペシャリティスポーツ」として位置づけたのです。 その覚悟が、この価格に表れています。
新開発2.0Lハイブリッドシステム「e:HEV」の進化
新型プレリュードの心臓部は、シビックタイプRの2.0L VTEC TURBOエンジンではありません。 ホンダの次世代電動化技術を象徴する、2.0L 2モーター内蔵電気式CVTを搭載したスポーツe:HEVです。
「なんだ、ハイブリッドか」と落胆するのは早計です。 このシステムは、アコードやシビックe:HEVに搭載されているものをベースとしながらも、プレリュードのキャラクターに合わせて大幅に手が加えられています。
最大の特徴は、モーター駆動を主体としながらも、エンジンが持つ官能的なフィーリングを徹底的に追求している点です。 アクセル操作に対するモーターの応答性はリニアに、そしてエンジンが始動・介入する際のサウンドや振動は、ドライバーの高揚感を煽るように緻密にコントロールされています。
環境性能が厳しく問われる現代において、大排気量の純ガソリンエンジンを搭載したピュアスポーツカーを新たに開発することは、ビジネス的にも環境的にも極めて困難です。 ホンダは、e:HEVという自社の得意技術をスポーツカーの世界に持ち込むことで、「走る喜び」と「環境性能」を両立させるという、未来のスポーツカー像をプレリュードで提示しようとしているのです。 この先進的なハイブリッドシステムの開発と最適化にも、当然ながら莫大なコストがかかっています。
最大の注目株!新技術「S+シフト」とは何か
そして、新型プレリュードの価格を語る上で欠かせないのが、世界初採用となる新技術**「S+(エスプラス)シフト」**の存在です。
これは、モーター駆動のハイブリッドカーでありながら、あたかも8速のステップAT(有段変速機)を操作しているかのような、ダイレクトでリズミカルなシフトフィールを実現する革新的な技術です。
通常、e:HEVのようなシリーズ・パラレル式のハイブリッドシステムは、モーターが主役であるため、変速という概念が希薄です。 しかし、ホンダはあえてここにメスを入れました。 パドルシフトを操作すると、エンジン回転数が疑似的なシフトアップ・ダウンに合わせて小気味よく変動し、それに連動して加速Gがリズミカルに変化します。
さらに、「アクティブサウンドコントロール」というシステムが、エンジン回転数と同期した迫力あるサウンドをスピーカーから発生させ、聴覚的にもシフトチェンジを演出します。 メーター表示も瞬時に反応し、視覚、聴覚、そして体感のすべてで、ドライバーと車の一体感を高める工夫が凝らされているのです。
この「S+シフト」は、単なるギミックではありません。 モーター駆動の効率性と静粛性を維持しながら、内燃機関が持つ「操る楽しさ」「官能性能」を融合させるという、ホンダ技術陣の執念の結晶です。 このような世界初の複雑な制御システムの開発には、相応の投資が必要であり、それが車両価格に反映されるのは必然と言えるでしょう。
現代のクルマ開発におけるコスト高騰の背景
最後に、個別の車種の問題だけでなく、自動車業界全体を取り巻く環境も価格高騰の大きな要因となっています。
- 先進安全装備の標準化:衝突被害軽減ブレーキやアダプティブクルーズコントロールといった「Honda SENSING」の機能は年々高度化しており、その開発・搭載コストは増加の一途をたどっています。
- コネクテッド技術の進化:Googleを搭載した最新のナビゲーションシステムや、OTA(Over The Air)によるソフトウェアアップデート機能など、現代の車は「走るスマートフォン」と化しており、そのための通信モジュールや高性能なプロセッサが必須となっています。
- 原材料費・物流費の上昇:世界的なインフレや地政学的リスクにより、鋼材やアルミ、レアメタルといった原材料の価格は高止まりしています。また、車両を工場からディーラーまで運ぶ物流コストも上昇しています。
これらの複合的な要因により、10年前の同クラスの車種と比較して、現代の新型車は数百万円単位で価格が上昇しています。 新型プレリュードも、こうした時代の流れと無縁ではいられないのです。
スペックは価格に見合うのか|ライバル車種との徹底比較と購入前の注意点
高価格である背景は理解できても、最終的にユーザーが知りたいのは「その価格を支払う価値があるのか」という一点に尽きるでしょう。 ここでは、ライバルとなる車種と比較しつつ、プレリュードが持つ独自の価値と、購入を決断する前に必ず知っておくべき注意点を、ジャーナリストとしての視点から忌憚なくお伝えします。

引用 : HONDA HP (https://global.honda/jp/news/2025/4250731.html)
新型プレリュードのスペックを徹底解剖
まずは、新型プレリュードの基本的なスペックを確認しておきましょう。
項目 | スペック |
---|---|
全長×全幅×全高 | 4,600mm × 1,840mm × 1,390mm |
ホイールベース | 2,655mm |
パワートレイン | 2.0L 直列4気筒エンジン + 2モーターハイブリッド(e:HEV) |
最高出力(エンジン) | 145PS / 6,200rpm |
最大トルク(エンジン) | 17.8kgf・m / 3,500rpm |
最高出力(モーター) | 184PS / 5,000-6,000rpm |
最大トルク(モーター) | 32.1kgf・m / 0-2,000rpm |
駆動方式 | FF |
タイヤサイズ | 235/40R19 |
ボディサイズは、かつてのプレリュードと比べると一回り以上大きくなっていますが、現代のクーペとしては比較的コンパクトで、日本の道路事情でも扱いやすいサイズ感です。 注目すべきはモーターのスペックで、32.1kgf・mという最大トルクは、3.0Lクラスの自然吸気ガソリンエンジンに匹敵します。 これを電気モーター特有のゼロ回転から発生させるため、発進加速は極めて俊敏かつスムーズです。
このスペックと、前述したタイプR譲りのシャシー、そして「S+シフト」が組み合わさることで、新型プレリュードは「アンリミテッド・グライダー」という開発コンセプト通りの、滑空するような上質で爽快な走りを提供してくれるのです。
ライバルはレクサスRCやクラウン?価格帯で見る競合車
600万円台後半という価格帯は、国内外の魅力的なモデルがひしめく激戦区です。 ここでは、キャラクターの異なるいくつかのライバルと比較してみましょう。
車種 | 価格帯(参考) | パワートレイン | 特徴 |
---|---|---|---|
ホンダ 新型プレリュード | 約680万円 | 2.0L ハイブリッド | ドライビングプレジャーと環境性能の両立、新技術「S+シフト」 |
レクサス RC300h | 約645万円~ | 2.5L ハイブリッド | 上質な内外装、静粛性、FRレイアウト、ブランド力 |
トヨタ クラウン クロスオーバー | 約440万円~ | 2.5L HV / 2.4L Turbo HV | 革新的なデザイン、4ドアの実用性、先進安全装備 |
日産 フェアレディZ | 約540万円~ | 3.0L V6ツインターボ | 純粋なFRピュアスポーツ、伝統と歴史、MT設定あり |
トヨタ GRスープラ (RZ) | 約730万円~ | 3.0L 直6ターボ | BMWとの共同開発、ピュアスポーツ、圧倒的な動力性能 |
この表を見ると、新型プレリュードの立ち位置の特殊性がよくわかります。
- レクサス RCと比較すると、プレリュードはブランドの高級感や内外装の質感では一歩譲るかもしれません。しかし、走りのダイレクト感や先進性ではプレリュードに分があります。
- クラウンと比較すると、4ドアの実用性や後席の快適性は比べるまでもありません。プレリュードは、実用性よりもドライバー自身の楽しみを優先する、パーソナルな価値観を持つユーザーに向けた車です。
- フェアレディZやスープラと比較すると、純粋な速さやサーキット性能では彼らに軍配が上がるでしょう。しかし、プレリュードは日常域での快適性や燃費性能、そしてハイブリッドならではの静かで滑らかな走りを併せ持っています。
つまり、新型プレリュードは、どのライバルとも明確に異なる**「先進技術を搭載した、大人のための上質なFFスペシャリティスポーツ」**という独自のポジションを築いているのです。 この唯一無二のキャラクターに価値を見出せるかどうかが、選択の分かれ道となります。
往年のファンはがっかり?知っておくべき装備面のリアル
高い走行性能や先進技術を持つ一方で、新型プレリュードには価格を考えると「あれ?」と思ってしまうような、割り切られた装備がいくつか存在します。 これらは購入後に後悔しないためにも、事前にしっかりと把握しておく必要があります。
1. パワーシート&シートベンチレーションは非搭載
600万円を超える価格帯の車としては、運転席・助手席ともにパワーシートが装備されていないのは正直なところ驚きです。 また、夏場に重宝するシートベンチレーション(シートからの送風機能)もありません。 これらは、軽量化を優先したタイプRの思想を受け継いだ結果かもしれませんが、かつてのプレリュードが持っていた「デートカー」としての快適性を期待すると、肩透かしを食らうかもしれません。
2. サンルーフ(パノラマルーフ)の設定なし
歴代プレリュード、特に3代目(BA4/5/7型)のイメージを強く持っている方にとって、サンルーフは必須装備と考えるかもしれません。 しかし、新型プレリュードにはオプションを含めてサンルーフの設定が一切ありません。 これは、ボディ剛性の確保や軽量化、重心高を下げるといった、走行性能を最優先した設計思想の表れと言えるでしょう。
3. マルチビューカメラ(360度カメラ)の設定なし
これもベースとなったシビックに設定がないことが影響していますが、車両の全周を俯瞰映像で確認できるマルチビューカメラは搭載されていません。 N-BOXにさえ標準装備されている機能だけに、このクラスの車でないのは物足りなさを感じる点です。
4. Googleナビの特性
搭載されるナビは、最新のGoogleビルトインタイプです。 地図情報が常に最新で、音声認識の精度も高いというメリットがある一方、従来の国産ナビに慣れていると戸惑う部分もあります。 特に、高速道路走行時に次のインターチェンジやサービスエリアの情報を一覧で表示する、いわゆる「パネル表示」機能が現時点では実装されていない可能性が高いです。 今後のアップデートで改善される可能性はありますが、現状では注意が必要です。
購入したくてもできない?限定的な販売方法と厳しい購入条件
スペックや装備に納得し、いざ購入しようと思っても、新型プレリュードを手に入れるのは非常に困難です。 ホンダが発表した生産計画は、初期ロットがわずか2,000台、その後の月販目標も300台のみとなっています。
この希少性から、多くの販売会社では以下のような厳しい購入条件を設けています。
- 抽選販売:希望者多数のため、購入権利が抽選となる。
- 購入者の制限:過去にその販売会社での購入実績がある、あるいはホンダの会員サービス「Honda Total Care」に1年以上加入している既存顧客を優先する。
- 一括払いのみ:特にオンライン限定モデルなどでは、残価設定クレジットやローンでの支払いが不可の場合がある。
これは、純粋にプレリュードを欲しているファンに車を届けるため、そして短期的な利益を目的とした転売を防ぐための措置と考えられます。 しかし、初めてホンダ車を買おうと考えている一見の客にとっては、非常に高いハードルとなっているのが実情です。
デザインと内装の選択肢|ボディカラーと内装色の組み合わせに注意
内外装の選択肢が限定的であることも知っておくべきです。 特に注意したいのが、内装色と外装色の組み合わせ。 内装色は「ブルー&ホワイト」と「ブルー&ブラック」の2種類がありますが、精悍な印象の**「ブルー&ブラック」の内装を選べるのは、ボディカラーで「ムーンリットホワイトパール」を選択した場合のみ**という制約があります。 黒い内装を希望する場合は、必然的にボディカラーも白に決まってしまうのです。
スペシャリティクーペとしての立ち位置|後部座席はあくまで緊急用
最後に、これはクーペという車種の宿命ですが、後部座席の実用性は期待してはいけません。 大人が長時間快適に過ごせるスペースはなく、あくまで短距離の移動や、手荷物を置くためのスペースと割り切るべきです。 2シーターのスポーツカーと比べれば、後席があるだけでもありがたい、というくらいの認識でいるのが良いでしょう。
まとめ
さて、長きにわたるレビューもいよいよ締めくくりです。 新型プレリュードが高額であるという事実は揺るぎません。 しかし、その価格の裏には、ホンダの技術と情熱が凝縮されていることもまた事実です。
- 高価格の理由:シビックタイプRという最高の素材をベースに、プレリュード専用のセッティングを施し、未来のスポーツカー像を示す新開発のハイブリッドシステムと、世界初の「S+シフト」という革新技術を搭載した結果である。
- 価格に見合う価値:単純なコストパフォーマンスで測る車ではない。レクサスのような高級感や、フェアレディZのような絶対的な速さとは異なる、「運転の楽しさ」と「先進性」という体験価値に共感できるかどうかが判断の分かれ目となる。
- 購入前の注意点:快適装備の一部が省略されている点や、生産台数が極端に少なく購入のハードルが非常に高い点を理解しておく必要がある。
結論として、新型プレリュードは万人受けする車ではありません。 これは、ホンダが電動化時代においても「走る喜び」を追求し続けるという決意表明であり、その挑戦を心から応援したいと願う、熱心なホンダファンや、新しい時代のドライビングプレジャーを求める探求心旺盛なドライバーのために作られた、極めてパーソナルで特別な一台なのです。
もしあなたが、この車の背景にある物語と未来へのビジョンに心を動かされ、提示された価格を「投資」と捉えることができるのであれば、きっと新型プレリュードは、あなたのカーライフに何物にも代えがたい彩りと興奮をもたらしてくれることでしょう。