モータージャーナリスト兼コンサルタントの二階堂仁です。今回も多く寄せられてる質問にお答えしていきます。
この記事を読んでいる方は、「ポルシェ ボクスターに乗りたいけれど、世間から『貧乏』『無理してる』と思われないか」が気になっていると思います。私自身も複数のポルシェを所有しており、その中にはもちろんボクスターも含まれています。だからこそ、そうしたネガティブな噂が気になる気持ちはよくわかります。

引用 : ポルシェHP (https://www.porsche.com/japan/jp/models/cayenne/cayenne-models/cayenne/)
しかし、結論から言えば、その噂は的を射ていません。この記事を読み終える頃には、なぜボクスターがそのように言われるのか、そしてその本当の価値についての疑問が解決しているはずです。
記事のポイント
- ボクスターが「貧乏」と言われる理由の分析
- 実際のオーナー層とリアルな維持費
- 世間のイメージが悪化する背景の深掘り
- 後悔しないための中古車選びの極意

新しい車に乗り換える際、今乗っている愛車をどれだけ高く売却できるかは、次の車の選択肢にも大きく影響します。
私自身、一括見積もりサイトを活用したことで、ホンダヴェゼルからレクサスRXに乗り換えることができました。
ポルシェボクスター乗りは貧乏という噂の真相
「ボクスター乗りは貧乏」「無理してポルシェに乗っている」といった言葉を耳にすることがあります。憧れのポルシェを手に入れようとしている方にとって、このような噂は非常に気になるものでしょう。
なぜ、これほどまでに優れたスポーツカーが、あらぬ噂を立てられてしまうのでしょうか。その真相を、様々な角度から徹底的に分析していきます。

引用 : ポルシェHP (https://www.porsche.com/japan/jp/models/cayenne/cayenne-models/cayenne/)
なぜ「貧乏」「無理してる」と言われるのか?
ボクスターが「貧乏」「無理してる」と揶揄される背景には、主に4つの理由が考えられます。
1. ポルシェの中では比較的手頃な価格設定
最大の理由は、その価格設定にあります。ポルシェの象徴である911シリーズが、新車で最低でも1,600万円以上するのに対し、現行モデルの718ボクスターは約940万円から購入可能です。この「ポルシェの中では比較的安価」という事実が、「911には手が届かない人が選ぶポルシェ」という短絡的なイメージに繋がり、「無理している」という見方の原因となっています。
2. 中古車市場での価格の広がり
特に初期モデルである986型ボクスターは、現在の中古車市場で100万円台から探すことが可能です。20年以上前のモデルとはいえ、「ポルシェが100万円台で買える」という事実は、ブランドイメージの希薄化を招きました。これにより、車に詳しくない層からは「安い外車」と見なされ、オーナーまで「その程度の車に乗っている人」というレッテルを貼られがちです。
3. 「911こそが本物のポルシェ」という偏見
一部の熱狂的なポルシェファンや、ブランドの歴史に詳しい人の中には、「リアエンジンの911こそがポルシェの正統であり、ミッドシップのボクスターは傍流だ」と考える人がいます。このヒエラルキー的な考え方が、「格下のポルシェ」というイメージを助長し、オーナーを見下すような風潮を生み出す一因となっています。
4. 維持費を知らずに購入する層の存在
中古車価格の手頃さから、十分な資金計画なしにボクスターを購入してしまう層が一定数存在することも事実です。購入後に高額な維持費や予期せぬ修理費に直面し、結果的に手放さざるを得なくなるケースも少なくありません。このような事例が、「身の丈に合っていない」「無理している」というイメージを強化してしまっています。
実際のボクスターオーナーの年収層は?
では、実際のボクスターオーナーはどのような経済状況の方が多いのでしょうか。もちろん、オーナーの職業や年齢は様々で一括りにはできませんが、一般的には年収600万円〜1500万円の層が中心と言われています。
- 会社員・公務員: 独身の方や、子育てが一段落した方がセカンドカーとして所有するケースが多く見られます。年収600万円以上あれば、計画的に資金を準備することで十分に維持が可能です。
- 専門職(医師、弁護士など)・経営者: ファーストカーとして、あるいは趣味の車として気軽に購入・維持できる層です。この層にとっては、ボクスターの価格は決して高いものではありません。
重要なのは、年収の額そのものよりも、車にどれだけ費用をかけられるかという個人のライフスタイルや価値観です。年収が高くても車に興味がなければ乗りませんし、たとえ平均的な年収でも、車を最優先の趣味として資金を集中させている方もいます。少なくとも、「貧乏」な人が見栄だけで維持できるほど甘い車ではないことは確かです。
ボクスターは本当に「安い」ポルシェなのか?価格を比較
「安い」というイメージが先行しがちなボクスターですが、客観的に見て本当にそうなのでしょうか。新車価格と中古車価格を他のモデルと比較してみましょう。
新車価格の比較(2025年モデル)
モデル | エンジン | 新車価格(税込) |
---|---|---|
718 ボクスター | 2.0L 水平対向4気筒ターボ | 9,400,000円~ |
718 ケイマン | 2.0L 水平対向4気筒ターボ | 9,070,000円~ |
911 カレラ | 3.0L 水平対向6気筒ツインターボ | 16,970,000円~ |
マカン | 2.0L 直列4気筒ターボ | 8,620,000円~ |
カイエン | 3.0L V型6気筒ターボ | 12,870,000円~ |
このように、SUVであるマカンを除けば、ボクスターはポルシェのスポーツカーラインナップの中で最もエントリーしやすい価格設定です。しかし、940万円という価格は、国産高級車や他の欧州車ブランドのミドルクラス以上に相当し、決して「安い車」ではありません。ここからポルシェの代名詞ともいえる高額なオプションを追加していくと、乗り出し価格は容易に1,200万円を超えてきます。
維持費は国産スポーツカーと比べてどう?
ボクスターを所有する上で最も重要なのが維持費です。車両価格だけでなく、ランニングコストまで含めて考える必要があります。国産スポーツカーの代表格であるトヨタ GR86と比較してみましょう。
年間維持費の比較(概算)
項目 | ポルシェ ボクスター (981型) | トヨタ GR86 | 備考 |
---|---|---|---|
自動車税 | 45,000円 (2.7L) | 36,000円 (2.4L) | 年1回 |
任意保険 | 100,000円~200,000円 | 60,000円~120,000円 | 年齢・等級による |
車検費用 | 200,000円~400,000円 | 100,000円~150,000円 | 2年に1回(交換部品による) |
オイル交換 | 30,000円~50,000円 | 10,000円~15,000円 | 年1回または走行距離 |
タイヤ交換 | 200,000円~350,000円 | 100,000円~180,000円 | 2~3年ごと |
年間合計(概算) | 385,000円~ | 226,000円~ | 車検費用を1年分で換算 |
※上記はあくまで目安であり、車両の状態や走行距離、整備を依頼する工場によって大きく変動します。
表を見てもわかる通り、ボクsterの維持費は国産スポーツカーの約2倍以上かかります。特に、車検やタイヤ交換、そして後述する故障時の修理費用は高額になりがちです。
故障リスクと修理費用
ポルシェは品質の高い車ですが、機械である以上故障は避けられません。そして、その修理費用は国産車の比ではありません。
- エンジン・ミッション系のトラブル: 50万円~100万円以上
- エアコンコンプレッサーの故障: 20万円~30万円
- 幌(ソフトトップ)の故障: 15万円~50万円
特に、初期の986型や987型前期モデルには、「IMS(インターミディエイトシャフト)ベアリング」というエンジンの重大なトラブルに繋がる弱点が存在します。対策部品への交換には30万円以上の費用がかかるため、中古車選びではこの点の確認が必須です。 これらの維持費や修理費を考慮すると、「貧乏」な人が手を出せる車ではないことがお分かりいただけるでしょう。
SNSやネットでのリアルな声
SNS上では、ボクスターオーナーの様々な声を見ることができます。
「ボクスター乗ってると『無理してる』って言われることあるけど、このミッドシップの楽しさを知らないだけ。最高の相棒だよ。」
「確かに維持費はかかる。でも、それ以上の感動と体験をくれるのがボクスター。オープンにして走るワインディングは格別。」
「中古で安く買ったけど、修理代で結局高くついた。買うなら信頼できる店で、ある程度の予算は覚悟しないとダメだね。」
このように、ネガティブなイメージに反して、多くのオーナーがその走りに満足し、愛情を注いでいることがわかります。一方で、維持費の大変さを指摘する声もあり、やはり計画性の重要さが伺えます。
ポルシェボクスターの世間的なイメージが悪い理由
「貧乏」という噂以外にも、ボクスターにはいくつかのネガティブなイメージがつきまといます。なぜ、これほどまでに魅力的な車が、正当に評価されないことがあるのでしょうか。その背景をさらに深く掘り下げていきます。

引用 : ポルシェHP (https://www.porsche.com/japan/jp/models/cayenne/cayenne-models/cayenne/)
理由1:エントリーモデルという立ち位置
前述の通り、ボクスターはポルシェのスポーツカーラインナップにおける「入門編」という立ち位置です。これが、車に詳しくない人だけでなく、一部の車好きからも「格下」と見られてしまう最大の原因です。「どうせ買うなら911」という価値観が根強く存在し、ボクスターを選ぶことは妥協の産物であるかのように語られることがあります。しかし、これはボクスターの持つ独自の魅力を全く理解していない見方です。
理由2:中古車価格の下落によるイメージの希薄化
100万円台から購入できる初期モデルの存在は、良くも悪くもポルシェの敷居を下げました。多くの人がポルシェオーナーになる夢を叶えられるようになった一方で、ブランドが持つ「特別な高級車」というイメージが薄れてしまったのも事実です。「誰でも乗れるポルシェ」という印象が、結果的にブランド価値を下げ、オーナーまで軽んじられる風潮に繋がっています。
理由3:一部オーナーの言動やマナー
残念ながら、どの車種にもマナーの悪いドライバーは存在します。ボクスターの場合、「ポルシェ」というブランドイメージを笠に着て、自己顕示欲を満たすためだけに乗っているように見えるオーナーが一部にいることも否定できません。SNSでの過度なアピールや、無謀な運転などが目立つと、それが車種全体のイメージとして定着してしまいます。「見栄で乗っている」というイメージは、こうした一部のオーナーの言動によって作られている側面があります。
理由4:オープンカー特有の偏見
ボクスターは2シーターのオープンカーです。このスタイル自体が、日本ではまだ「派手」「チャラい」「実用性がない」といった偏見を持たれがちです。特に、実用性を重視する層からは理解されにくく、趣味性の高い車として敬遠されることがあります。こうしたオープンカーへのネガティブなイメージが、そのままボクスターのイメージに重なってしまうのです。
理由5:過去のエンジン問題(IMS問題など)
先ほども触れた「IMSベアリング問題」は、特に986型後期から987型前期のボクスターの評価に大きな影響を与えました。この問題は、最悪の場合エンジンブローに繋がる深刻なものであり、「ポルシェは壊れやすい」というイメージを植え付けるには十分なインパクトがありました。現在では対策方法も確立されていますが、一度ついたネガティブなイメージは根強く残っています。
【コンサルタント視点】ボクスターの本当の価値とは?
世間のイメージとは裏腹に、自動車のプロフェッショナルから見たボクスターの評価は非常に高いものです。その価値の源泉は、**「ミッドシップ・レイアウト」**にあります。
エンジンを車体の中央(運転席のすぐ後ろ)に配置するミッドシップは、理想的な前後重量バランスを実現し、極めて高い運動性能を発揮します。コーナーを曲がる際の回頭性の良さ、マシンの重心を中心にクルッと向きを変える感覚は、リアエンジンの911やフロントエンジンの車では味わえない、ボクスターならではの世界です。
ポルシェはこのミッドシップ・オープンというパッケージを、初代から一貫して磨き続けてきました。それは決して911の廉価版としてではなく、**「純粋なドライビングプレジャーを追求する」**という、もう一つのポルシェの哲学を体現したモデルなのです。私自身、サーキットで様々な車を走らせますが、ボクスターがもたらす人馬一体感は、価格が何倍もするスーパーカーに引けを取らないと感じています。
イメージを気にせずボクスターを楽しむには?
もしあなたが本当にボクスターの走りに魅力を感じているのであれば、世間のイメージなど気にする必要は全くありません。大切なのは、あなた自身の価値観です。
- 購入目的を明確にする: 「ポルシェ」というブランドに乗りたいのか、それとも「ボクスター」という車の走りが好きなのか。後者であれば、自信を持って選ぶべきです。
- 自分の価値観を大切にする: 他人の評価で車を選ぶのは、最も不幸な選択です。自分が心から乗りたいと思った車に乗ることが、最高のカーライフに繋がります。
- 信頼できるショップを見つける: ポルシェを専門に扱う、知識と経験が豊富なショップを見つけることが、維持の不安を解消し、車との良い関係を築く鍵となります。
- オーナーズクラブなどで仲間を見つける: 同じ価値観を持つ仲間と繋がることで、世間の雑音は気にならなくなります。情報交換の場としても非常に有益です。
後悔しない!中古ボクスターの選び方と注意点
ネガティブなイメージを払拭し、ボクスターの購入を決意した方のために、後悔しないための中古車選びのポイントを解説します。ここを間違えると、「やっぱり無理して買うべきじゃなかった」と後悔することになりかねません。

引用 : ポルシェHP (https://www.porsche.com/japan/jp/models/cayenne/cayenne-models/cayenne/)
モデルごとの特徴と狙い目(986, 987, 981, 718)
ボクスターは大きく分けて4つの世代に分類されます。それぞれに特徴があり、予算や求めるものによって最適な選択は異なります。
世代 (型式) | 製造年 | エンジン | 特徴 | 中古車相場 | 狙い目・注意点 |
---|---|---|---|---|---|
初代 (986) | 1996-2004 | 水平対向6気筒 | ポルシェ初の水冷エンジン。軽量でピュアな走り。涙目ヘッドライトが特徴的。 | 100万円~250万円 | とにかく安価。IMS問題のリスクが最も高い世代。内外装の劣化も要チェック。 |
2代目 (987) | 2004-2012 | 水平対向6気筒 | デザインが911(997型)に近くなり洗練された。後期型(2009~)はPDK搭載、IMS問題も解決。 | 200万円~450万円 | 前期型はまだIMSのリスクあり。予算が許せば後期型のPDKモデルが走りも信頼性も高い。 |
3代目 (981) | 2012-2016 | 水平対向6気筒 | ボディサイズが拡大しモダンなデザインに。最後の自然吸気6気筒エンジン。官能的なサウンドが魅力。 | 450万円~700万円 | 非常に評価が高く価格も高値安定。自然吸気フラット6にこだわるなら最後のチャンス。 |
4代目 (718) | 2016-現在 | 水平対向4気筒ターボ | ダウンサイジングターボ化。低回転からのトルクは強力だが、エンジンサウンドは好みが分かれる。 | 600万円~ | 現代的なパフォーマンスと燃費性能。走行距離の少ない高年式車を狙える。 |
私のおすすめは?
個人的に最もバランスが取れていておすすめしたいのは、3代目の981型です。ポルシェ伝統の自然吸気フラットシックスが奏でるサウンドは、まさに官能的の一言。デザインの完成度も高く、所有する満足度は非常に高いでしょう。価格は高めですが、リセールバリューも期待できるため、結果的に賢い選択となる可能性があります。
購入前にチェックすべき最重要ポイント
中古のボクスターを購入する際は、以下のポイントを必ず自分の目で確認してください。
- 整備記録簿の有無: これまでのメンテナンス履歴がわかる最も重要な書類です。特にポルシェ専門工場での整備記録が豊富にあれば安心材料となります。
- エンジンからの異音・オイル漏れ: エンジン始動時やアイドリング時に「ガラガラ」「シャラシャラ」といった異音がないか確認します。エンジン下部や周辺からのオイル漏れも定番のチェックポイントです。
- 幌(ソフトトップ)の状態: 開閉動作がスムーズか、途中で引っかかりがないか、最低5回は連続で試しましょう。幌の生地に破れや擦り切れ、雨漏りの跡がないかも入念にチェックします。
- IMS問題対策の有無(986/987前期): 対象モデルの場合、整備記録簿でIMSベアリングの交換履歴を確認します。不明な場合は、購入後に予防整備として交換することをおすすめします。
- タイヤとブレーキの状態: タイヤの製造年や残り溝、ブレーキパッドやローターの消耗具合を確認します。これらは交換すると高額なため、納車時に新品に交換してもらえるか交渉するのも手です。
おすすめのオプション装備
ポルシェはオプション装備によって走りの質や快適性が大きく変わります。中古車で狙いたい人気のオプションは以下の通りです。
- スポーツクロノパッケージ: エンジンのレスポンスやシフトタイミングがよりスポーティになるモードを追加できます。ダッシュボード中央のアナログクロックが目印です。リセールバリューにも大きく影響します。
- PASM(ポルシェ・アクティブサスペンション・マネージメントシステム): ボタン一つでサスペンションの硬さを変更できる電子制御ダンパーです。乗り心地とスポーツ性能を両立させるための必須オプションと言えます。
- シートヒーター: オープンカーには必須の装備です。冬場や肌寒い季節でも快適にオープンドライブが楽しめます。
まとめ
「ポルシェボクスター乗りは貧乏」という噂は、その価格設定や中古車市場の状況、そして一部の偏見から生まれた、的確ではないレッテルです。むしろ、高額な維持費や専門的なメンテナンスを必要とすることから、ボクスターは相応の経済力と車への深い愛情がなければ所有し続けることが難しい車であると言えます。
重要なのは、世間のイメージに惑わされることなく、あなた自身の目でボクスターの価値を見極めることです。ミッドシップレイアウトがもたらすピュアなハンドリング、オープンエアモータリングの爽快感は、一度味わえば他の車では満足できなくなるほどの魅力を持っています。
この記事が、あなたのボクスターに対する不安を解消し、素晴らしいポルシェライフへの第一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。ぜひ一度、試乗してその本質に触れてみてください。きっと、ネット上の噂などどうでも良くなるはずです。