モータージャーナリスト兼コンサルタントの二階堂仁です。今回も多く寄せられている質問にお答えしていきます。
この記事を読んでいる方は、「中古のポルシェカイエンに乗りたいけれど、故障が心配だ」「壊れやすいって聞くけど、実際はどうなの?」といった点が気になっていることでしょう。

引用 : ポルシェHP (https://www.porsche.com/japan/jp/models/cayenne/cayenne-models/cayenne/)
私もカイエンのオーナーとして、過去にいくつかのトラブルを経験したので、その気になる気持ちはよくわかります。しかし、正しい知識を持って個体を選べば、中古のカイエンは最高のパートナーになり得ます。
この記事を読み終える頃には、中古カイエンの故障に関する漠然とした不安や疑問が解消され、自信を持って車両選びに臨めるようになっているはずです。
記事のポイント
- 中古カイエンが壊れやすいと言われる本当の理由
- 世代別の具体的な故障箇所とリアルな修理費用
- 購入で失敗しないためのプロが見るチェックポイント
- カイエンの気になる維持費とオーナーの生の声

新しい車に乗り換える際、今乗っている愛車をどれだけ高く売却できるかは、次の車の選択肢にも大きく影響します。
私自身、一括見積もりサイトを活用したことで、ホンダヴェゼルからレクサスRXに乗り換えることができました。
ポルシェ カイエンの中古車が壊れやすいと言われる噂の真相
「ポルシェ カイエンの中古車は壊れやすい」という噂は、多くの方が一度は耳にしたことがあるかもしれません。特に、初めての輸入車、それもポルシェという響きに憧れを抱く方ほど、この言葉が重くのしかかることでしょう。
では、この噂は果たして真実なのでしょうか。長年、自動車業界に身を置き、自身もカイエンを所有するコンサルタントとして、この噂の真相に迫ります。

引用 : ポルシェHP (https://www.porsche.com/japan/jp/models/cayenne/cayenne-models/cayenne/)
結論:正しく選べば「壊れやすい」は誤解
結論から申し上げると、「中古のカイエンがすべて壊れやすい」というのは誤解です。正確には、「適切なメンテナンスを受けてこなかった、あるいは特定のウィークポイントを抱えた個体が、年式の経過とともに故障しやすい」と言うべきでしょう。
ポルシェは、世界でもトップクラスの技術力と品質管理を誇る自動車メーカーです。その信頼性は、ル・マン24時間レースなどの過酷なモータースポーツシーンで証明され続けています。カイエンも例外ではなく、本来は非常に堅牢で信頼性の高い車両です。
問題は、中古車という特性にあります。新車と違い、中古車は前オーナーの乗り方やメンテナンス履歴によって、一台一台コンディションが大きく異なります。特にカイエンのような高性能プレミアムSUVは、その性能を維持するために定期的なメンテナンスが不可欠です。このメンテナンスを怠ってきた車両が市場に出回り、「ポルシェは壊れる」というイメージの一因となっているのです。
なぜ「壊れやすい」という噂が広まったのか
では、なぜカイエン、特に中古車に対して「壊れやすい」というネガティブなイメージが定着してしまったのでしょうか。理由はいくつか考えられます。
- 初代モデルのトラブルが印象を決定づけた 2002年に登場した初代カイエン(955型/957型)は、ポルシェ初のSUVとして世界中に衝撃を与え、大ヒットを記録しました。しかし、その一方で、これまでポルシェが手掛けてこなかった新しいメカニズムや電子制御システムを多数採用したため、初期モデルには特有のトラブルが散見されたのも事実です。特に、冷却水パイプの破損やエアサスペンションの故障などは、高額な修理費用がかかるケースもありました。この初代モデルのトラブル事例が大きく取り上げられ、「カイエン=壊れる」というイメージが広まるきっかけとなりました。
- 部品代・修理費用が高額であること ポルシェはプレミアムブランドであり、部品代や正規ディーラーでの修理費用は、国産車と比較して高額になる傾向があります。例えば、国産車なら数万円で済む修理が、カイエンでは数十万円かかることも珍しくありません。この「修理費用の高さ」が、「頻繁に壊れる」という印象に結びついてしまっている側面があります。
- メンテナンス不足の車両が市場に流通している 初代カイエンは、中古車市場での価格がかなりこなれてきており、100万円台から狙える個体も増えてきました。しかし、車両価格が安くなったからといって、維持費まで安くなるわけではありません。購入後のメンテナンス費用を考慮せずに安価な車両に飛びついてしまい、結果的に「すぐに壊れた」「維持できない」と手放してしまうケースが後を絶ちません。こうした個体が再び市場に出回ることで、負のスパイラルが生まれているのです。
【初代】カイエン(955/957型:2002年~2010年)に多いトラブル
中古車市場で最も手頃な価格帯となっているのが、この初代モデルです。しかし、購入には最も注意が必要な世代でもあります。私の経験上、特に注意すべき代表的なトラブルは以下の通りです。
- 冷却水(クーラント)パイプの破損・水漏れ V8エンジン搭載モデルの持病とも言えるトラブルです。エンジン上部にある樹脂製の冷却水パイプが熱で劣化し、亀裂が入ることで水漏れが発生します。最悪の場合、オーバーヒートを引き起こし、エンジンに深刻なダメージを与える可能性もあります。修理にはエンジン周辺の部品を広範囲に分解する必要があるため、20万円~30万円程度の高額な費用がかかります。現在では対策品としてアルミ製のパイプも存在するため、購入を検討している車両が対策済みかどうかは必ず確認したいポイントです。
- エアサスペンションの故障 乗り心地を向上させるエアサスペンションですが、経年劣化によりエア漏れやコンプレッサーの故障が発生しやすい部品です。車高が上がらない、または下がったままになる、警告灯が点灯するといった症状が出ます。修理費用は1箇所あたり15万円~25万円程度と高額で、複数箇所が同時に故障することも少なくありません。
- プロペラシャフトのセンターベアリング破損 走行中に車体中央下部から「ゴトゴト」「カタカタ」といった異音や振動が発生した場合、この部品の破損が疑われます。プロペラシャフトを支えるゴム製のベアリングが劣化して亀裂が入るのが原因です。正規ディーラーではプロペラシャフトごとの交換となり30万円近い費用がかかりますが、専門工場であればベアリングのみの交換で10万円前後に抑えることも可能です。
【2代目】カイエン(958型:2010年~2017年)の信頼性
初代モデルの反省を活かし、大幅に品質と信頼性が向上したのが2代目モデルです。初代で多発した冷却水パイプのトラブルなどは改善されており、大きな持病は比較的少ないと言えます。そのため、予算に余裕があれば、中古車としては初代よりも2代目を狙うのが賢明な選択です。
ただし、ノーリスクというわけではありません。
- トランスファーケースの不具合 4WDシステムの中核をなすトランスファーケースから、加速時や旋回時に異音やジャダー(振動)が発生するトラブルが報告されています。内部のクラッチの摩耗が原因とされており、修理にはトランスファーケース本体の交換が必要になる場合が多く、50万円以上の高額修理となる可能性があります。定期的なオイル交換で予防できる側面もあるため、メンテナンス履歴の確認が重要です.
- PDCC(ポルシェ・ダイナミック・シャシー・コントロールシステム)の油圧漏れ コーナリング時の車体の傾きを抑制する高度なシステムですが、油圧ラインからのオイル漏れが発生することがあります。こちらも修理には高額な費用がかかるため、購入時のチェックは必須です。
【3代目】カイエン(92A型:2017年~)の中古市場の現状
現行モデルである3代目は、年式も新しく、中古車市場でも高値を維持しています。大きなトラブルの報告はまだ少なく、信頼性は非常に高いと言えるでしょう。ただし、最新の電子制御システムや運転支援システムが多数搭載されているため、万が一不具合が発生した際の修理費用は、先代モデルよりも高額になる可能性があります。
新車保証が残っている車両も多いため、購入の際は保証継承が可能かどうかを確認することが重要です。
【世代別】ポルシェ カイエンの中古車購入時の注意点とチェックポイント
さて、カイエンが「正しく選べば怖くない」ことはご理解いただけたかと思います。ここからは、実際に中古車を選ぶ際に、プロである私がどこをチェックするのか、具体的なポイントを世代別に解説していきます。これを知っているだけで、ハズレ個体”を引くリスクを大幅に減らすことができます。

引用 : ポルシェHP (https://www.porsche.com/japan/jp/models/cayenne/cayenne-models/cayenne/)
カイエンの主な故障箇所と修理費用一覧
まずは、カイエンで発生しがちなトラブルと、その修理にかかる費用の目安を一覧表にまとめました。この金額感を頭に入れておくと、車両選びや購入後の予算計画に役立ちます。
故障箇所 | 症状 | 修理費用(目安) | 発生しやすい世代 |
---|---|---|---|
エンジン・駆動系 | |||
冷却水パイプ破損 | 甘い匂い、水温計の上昇、エンジン下からの水漏れ | 200,000円~300,000円 | 初代(V8) |
イグニッションコイル不良 | アイドリング不調、エンジンの振動、加速不良 | 50,000円~100,000円(全数交換) | 全世代 |
プロペラシャフトセンターベアリング破損 | 走行中の異音・振動(車体中央下部から) | 80,000円~250,000円 | 初代、2代目 |
トランスファーケース不良 | 加速時・旋回時の異音・ジャダー | 300,000円~600,000円 | 2代目 |
足回り・サスペンション | |||
エアサスペンション故障 | 車高が上がらない・下がったまま、警告灯点灯 | 150,000円~250,000円(1箇所) | 初代、2代目 |
ブレーキパッド/ローター摩耗 | ブレーキ時の異音、制動力低下 | 150,000円~300,000円(前後交換) | 全世代 |
電装系 | |||
パワーウィンドウレギュレーター故障 | 窓の開閉ができない、異音がする | 50,000円~80,000円(1箇所) | 初代 |
ヘッドライト光軸調整モーター故障 | ヘッドライトの光軸がずれる | 80,000円~150,000円 | 初代 |
その他 | |||
天井(ルーフライニング)の垂れ | 天井の内張りが剥がれて垂れ下がってくる | 100,000円~200,000円 | 初代、2代目 |
※上記はあくまで目安です。修理を依頼する工場(正規ディーラーか専門工場か)や交換部品によって費用は変動します。
エンジン・駆動系のチェックポイント
車の心臓部であるエンジンと、その力を伝える駆動系は最も重要なチェックポイントです。
エンジンルームの確認
まずボンネットを開け、エンジン全体を見渡します。オイル漏れや水漏れの痕跡がないか、キャップ類はしっかり閉まっているかを確認しましょう。特に初代のV8モデルでは、エンジン上部や後方からの冷却水漏れの痕跡(ピンクや緑色のシミ)がないかを入念にチェックします。エンジンをかけた状態で異音(ガラガラ、キュルキュルなど)がしないかも耳を澄ませて確認してください。
試乗時のフィーリング
試乗では、アイドリングが安定しているか、アクセルを踏んだ際にスムーズに吹け上がるか、変速ショックが大きすぎないかなどを確認します。2代目で懸念されるトランスファーの不具合を確認するため、駐車場などでゆっくりとハンドルを大きく切りながら前進・後退し、ガクガクという不自然な振動(ジャダー)が出ないかをチェックすることも有効です。
足回り・サスペンションのチェックポイント
カイエンのスポーティな走りと快適な乗り心地を支える足回りも、コンディションが良いものを選びたいところです。
エアサスの動作確認
エアサス搭載車の場合は、必ず車高調整が正常に機能するかを試させてもらいましょう。スイッチを操作して、スムーズに車高が上下するか、また、しばらく停車しても車高が勝手に下がってこないかを確認します。
異音と乗り心地
試乗時には、あえて路面の悪い場所や段差を走行してみましょう。その際に「ゴトゴト」「コトコト」といった異音が足回りから聞こえないか、乗り心地がフワフワしすぎていないかを確認します。異音はブッシュ類の劣化、フワフワした乗り心地はショックアブソーバーの抜けが考えられます。
電装系のチェックポイント
現代の車は電子制御の塊です。一つ一つの機能が正常に作動するか、地道に確認作業を行いましょう。
- 警告灯: イグニッションをONにした際に全ての警告灯が点灯し、エンジン始動後に速やかに消灯するかを確認します。ABSやエアバッグなどの重要な警告灯が点灯したままの車両は絶対に避けましょう。
- エアコン: 冷房・暖房がしっかりと効くか、風量の切り替えはスムーズか、異音や異臭はしないかを確認します。
- ナビ・オーディオ: ナビゲーションが現在地を正しく表示するか、タッチパネルの反応は正常か、スピーカーから音は正常に出るかなどを確認します。
- その他: パワーウィンドウ、サンルーフ、電動格納ミラー、パワーシート、パワーテールゲートなど、全ての電動装備を一つずつ動かして、スムーズに作動するかを確認してください。
失敗しない中古車販売店の選び方
良い個体を見つけるのと同じくらい重要なのが、信頼できる販売店を選ぶことです。

引用 : ポルシェHP (https://www.porsche.com/japan/jp/models/cayenne/cayenne-models/cayenne/)
ポルシェ専門店・輸入車専門店を選ぶ
カイエンのような特殊な車両は、やはり専門知識と整備経験が豊富な専門店での購入が最も安心です。カイエン特有のウィークポイントを熟知しており、納車前の点検整備もしっかりと行ってもらえます。また、購入後のメンテナンスや万が一のトラブルの際にも、的確なアドバイスと対応が期待できます。
整備工場を併設しているか
自社で整備工場を持っている販売店は、車両の状態を正確に把握しており、アフターサービスにも責任を持って対応してくれる可能性が高いです。
整備記録簿の有無と内容
過去のメンテナンス履歴がわかる整備記録簿は、その車がどのように扱われてきたかを知るための最も重要な書類です。定期的なオイル交換や車検整備の記録はもちろん、「いつ、どこで、何を修理・交換したか」が詳細に記載されているかを確認しましょう。特に、前述したようなウィークポイントとなる部品の交換履歴があれば、大きなプラス材料となります。
ポルシェ カイエンの中古車の維持費はどのくらい?
車両を購入できたとしても、その後の維持費が払えなければ意味がありません。カイエンのオーナーになるためには、年間どのくらいの費用がかかるのか、リアルな数字を把握しておきましょう。
年間維持費の内訳(目安)
ここでは、中古車として人気の高い2代目カイエン V6(3.6L)を例に、年間の維持費をシミュレーションしてみます。
項目 | 費用(目安) | 備考 |
---|---|---|
税金 | ||
自動車税 | 66,500円 | 3.6Lの場合(年1回) |
自動車重量税 | 41,000円 | 2年車検時に支払い(年換算 20,500円) |
保険 | ||
自賠責保険 | 17,650円 | 2年車検時に支払い(年換算 8,825円) |
任意保険 | 80,000円~150,000円 | 年齢、等級、車両保険の有無で大きく変動 |
メンテナンス | ||
車検費用 | 150,000円~300,000円 | 2年に1回(年換算 75,000円~150,000円) |
エンジンオイル交換 | 20,000円~30,000円 | 年1~2回 |
燃料費 | ||
ガソリン代 | 約240,000円 | 年間1万km走行、燃費7km/L、ガソリン単価170円/Lで計算 |
合計(年間) | 約500,000円~650,000円 |
上記に加えて、駐車場代や、後述する消耗品の交換費用、突発的な故障による修理費用がかかる可能性があります。年間で最低でも60万円~80万円程度の予算は見ておくと安心でしょう。
消耗品の交換費用とサイクル
カイエンは車重が2トンを超えるため、タイヤやブレーキへの負担が大きく、消耗品の交換サイクルは国産車より早い傾向にあります。
- タイヤ交換: 銘柄にもよりますが、4本交換で15万円~30万円程度。寿命は走行スタイルによりますが、2年~4年が目安です。
- ブレーキパッド/ローター交換: 前後全て交換すると20万円~30万円程度。パッドは約3万km、ローターは約6万kmが交換の目安です。
- バッテリー交換: 5万円~8万円程度。3年~5年ごとの交換が推奨されます。
維持費を抑えるためのコツ
カイエンの維持費は決して安くありませんが、工夫次第で抑えることは可能です。
- 信頼できる専門工場を見つける 車検や修理の際に、正規ディーラーだけでなく、ポルシェを専門に扱う優良な整備工場も選択肢に入れましょう。ディーラー同等のクオリティで、よりリーズナブルな価格で整備を受けられる場合があります。
- リビルト品やOEM品を活用する 故障した部品を交換する際、新品だけでなく、オーバーホールされたリビルト品や、ポルシェに部品を供給しているメーカーが製造したOEM品を活用することで、費用を抑えることができます。
- 車両保険に加入する 万が一の事故や高額な修理が必要になった場合に備え、任意保険の車両保険には加入しておくことを強くお勧めします。
まとめ
今回は、「ポルシェ カイエンの中古車は壊れやすい」という噂の真相について、私の経験と知識を基に詳しく解説してきました。
結論として、中古のカイエンは、確かに国産車と同じ感覚で維持できる車ではありません。特定の世代には特有のウィークポイントが存在し、修理費用も高額になりがちです。しかし、それは決して「理由なく頻繁に壊れる」という意味ではありません。
この記事で紹介したような、世代ごとの特徴やチェックすべきポイントをしっかりと理解し、信頼できる販売店で、過去のメンテナンス履歴が明確な良質な個体を選ぶこと。そして、購入後は信頼できるパートナー(整備工場)を見つけ、愛情を持って定期的なメンテナンスを行っていくこと。
この2点さえ守れば、中古のポルシェ カイエンは故障のリスクを最小限に抑えられ、あなたのカーライフを何倍にも豊かにしてくれる最高の相棒となるでしょう。ポルシェにしか味わえない圧倒的な走行性能と、SUVとしての実用性を兼ね備えたカイエンは、所有する喜びを日々感じさせてくれる特別な一台です。
この記事が、あなたのカイエン選びの一助となれば幸いです。