モータージャーナリスト兼コラムニストの二階堂仁です。今回も多く寄せられてる質問にお答えしていきます。
この記事を読んでいる方は、ボルボの現状について「中国メーカーに買収されて品質は大丈夫?」「EV戦略に失敗して経営が傾いているのでは?」といった不安や疑問をお持ちなのではないでしょうか。

私もジャーナリストとして、そして一人のオーナーとして、そうした世間の声やイメージが気になる気持ちはよくわかります。特に、大切な愛車選びで失敗したくないと考えるのは当然のことです。
ですが、ご安心ください。この記事を読み終える頃には、ボルボの買収後の実態や経営の現状、そしてオーナー層に関するあなたの疑問が、きっとクリアになっているはずです。
記事のポイント
- ボルボオーナーは変人という噂の真相
- 中国資本による品質への影響と実態
- EV失敗とリストラから見る経営状況
- ボルボが持つ独自の魅力と将来性

新しい車に乗り換える際、今乗っている愛車をどれだけ高く売却できるかは、次の車の選択肢にも大きく影響します。
私自身、一括見積もりサイトを活用したことで、ホンダヴェゼルからレクサスRXに乗り換えることができました。
ボルボは本当に「終わった」のか?ネガティブイメージの真相
「ボルボを選ぶ人は、ちょっと変わっている」「中国の車になったんでしょう?」…こうした声は、私の耳にもよく届きます。
しかし、自動車を深く知る者として、そして実際にボルボを所有する者として断言しますが、その多くは誤解に基づいたイメージ論に過ぎません。ここでは、世間に流布するネガティブなイメージが本当なのか、一つひとつファクトを元に解き明かしていきましょう。

引用 : ボルボHP (https://www.volvocars.com/jp/cars/xc90/)
ボルボのオーナーは変人という噂は本当か?実際の購入層を徹底分析
昔と今のボルボオーナー像の変化
かつてボルボといえば、質実剛健で安全性を第一に考える、医師や弁護士、大学教授といった堅実な職業の方に選ばれるイメージが強かったかもしれません。「空飛ぶレンガ」と揶揄された四角いデザインの時代ですね。確かに、当時のオーナーは実用性を何よりも重視する、ある意味で「こだわりが強い」人々だったと言えるでしょう。
しかし、現在のボルボオーナー層は大きく変化しています。洗練されたスカンジナビアンデザインが注目されて以降、デザイン関係者やIT企業の経営者、クリエイターといった、感度の高い人々からの支持が急増しました。彼らは、ドイツ御三家(メルセデス・ベンツ、BMW、アウディ)のような分かりやすいステータスではなく、「自分らしい価値観」や「本質的な豊かさ」を車に求めます。
データで見るオーナーの姿
具体的なデータを見ても、その変化は明らかです。ボルボ・カー・ジャパンの調査によると、購入者の平均年齢は年々若返っており、特にXC40などのコンパクトモデルでは30代〜40代が中心です。また、世帯年収も1,000万円を超える層がボリュームゾーンであり、知的で経済的にも余裕のある層に選ばれていることがわかります。
「変人」という言葉は、おそらく「他人とは違う選択をする人」というイメージから来ているのでしょう。しかし、その実態は「自分の価値観をしっかりと持ち、流行に流されずに良いものを選べる人」と表現する方が的確です。彼らは、ボルボが提供する安全性、デザイン、そして環境への配慮といった独自の価値に共感しているのです。
中国メーカー買収で品質は低下した?吉利汽車傘下での変化
2010年、ボルボが中国の浙江吉利控股集団(ジーリー)に買収されたニュースは、世界に衝撃を与えました。この出来事を境に、「ボルボはもはや中国車だ」「品質が落ちたに違いない」という声が聞かれるようになったのは事実です。しかし、結論から言えば、これは完全な誤解です。
買収ではなく「出資」に近い関係性
まず理解すべきは、吉利汽車とボルボの関係性です。吉利汽車はフォードからボルボの全株式を取得しましたが、ボルボの経営に過度に干渉することはありませんでした。むしろ、ボルボが長年培ってきたブランドイメージ、特に「安全」と「スカンジナビアンデザイン」という核となる価値を尊重し、開発・生産における独立性を保証したのです。
吉利汽車が行ったのは、潤沢な資金を提供し、ボルボがやりたかったけれど出来なかった大規模な投資を可能にすることでした。いわば、優秀な才能を持つアーティストに、最高の創作環境を提供するパトロンのような役割を果たしたのです。
買収後に起きたポジティブな変化
吉利汽車の資金力を得て、ボルボは息を吹き返します。
- 新プラットフォームの開発: SPA(スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー)やCMA(コンパクト・モジュラー・アーキテクチャー)といった、新世代のプラットフォームをゼロから開発。これにより、デザインの自由度と走行性能、安全性が飛躍的に向上しました。
- デザインの刷新: 現在のボルボの象徴である「トールハンマー」デザインのLEDヘッドライトや、洗練された内外装は、買収後に生み出されたものです。このデザイン革命が、新たな顧客層を獲得する最大の要因となりました。
- パワートレインの刷新: Drive-E(ドライブ・イー)と呼ばれる新世代パワートレインを開発し、全モデルを4気筒以下に統一。環境性能と走行性能の両立を実現しました。
- 販売台数のV字回復: これらの改革の結果、ボルボの世界販売台数は買収前の年間約37万台から、2023年には過去最高の70万台超へと倍増しました。
もし品質が低下していたら、これほどの成功はあり得ません。むしろ、吉利汽車のサポートがあったからこそ、ボルボはブランドの魅力を最大限に開花させることができたのです。
「チャイナリスク」は杞憂?スウェーデンブランドとしての独立性
「いくら品質が良くても、資本が中国である以上、いつ何が起こるか分からない」という、いわゆる「チャイナリスク」を懸念する声もあります。しかし、ボルボはこのリスクに対しても巧みに対処しています。

引用 : ボルボHP (https://www.volvocars.com/jp/cars/xc90/)
開発・デザインの拠点はスウェーデン
ボルボの心臓部である研究開発(R&D)部門やデザインセンターの本拠地は、今も昔もスウェーデンのイェーテボリにあります。ボルボ車の設計思想やデザイン哲学は、すべてここで生まれています。もちろん、グローバル企業として中国やアメリカにも拠点はありますが、最終的な意思決定やブランドの方向性を決めるのはスウェーデンの本社です。吉利汽車が「ボルボらしさ」に口を出すことはありません。
グローバルな生産体制
生産拠点も世界中に分散しています。
生産拠点 | 主な生産モデル | 供給先 |
---|---|---|
スウェーデン(トルスランダ) | XC90, V90, XC60 | グローバル |
ベルギー(ヘント) | XC40, C40, EX30 | グローバル(特に欧州) |
アメリカ(サウスカロライナ) | S60, EX90 | グローバル(特に北米) |
中国(成都、大慶、路橋) | S90, XC60, XC40 | グローバル(アジア中心) |
マレーシア(シャー・アラム) | 各種モデル(組立) | 東南アジア |
このように、特定の国に依存しない生産体制を構築することで、地政学的なリスクや関税問題にも柔軟に対応できるようになっています。例えば、後述する米国の対中関税が強化されても、アメリカで販売する車はアメリカ工場やベルギー工場から供給するといった対応が可能です。
ボルボのデザインは誰が?中国の影響はどこまであるのか
「中国資本になったのだから、デザインにも中国の意向が反映されているのでは?」という疑問を持つ方もいるでしょう。これも明確に否定できます。
買収後のボルボデザインを率いてきたのは、ドイツ人のトーマス・インゲンラート氏です。彼はフォルクスワーゲン・グループで活躍した後、2012年にボルボのデザイン担当上級副社長に就任しました。彼の指揮のもと、「トールハンマー」やモダンな内装といった、現在のボルボデザインの基盤が築かれました。
彼の哲学は、過度な装飾を排し、機能性と美しさを両立させるスカンジナビアの伝統に根差したものです。そこには、中国的な要素は一切見当たりません。むしろ、スウェーデンの自然や建築からインスピレーションを得た、クリーンで温かみのあるデザインこそがボルボの真骨頂です。現在、彼はボルボから独立したEVブランド「ポールスター」のCEOを務めていますが、彼が築いたデザイン言語は今もボルボに脈々と受け継がれています。
安全神話は崩壊?最新の安全性能と評価をチェック
ボルボといえば「安全」。これは誰もが認めるところでしょう。しかし、「それも昔の話では?」と疑う声もゼロではありません。最新のボルボは、本当に安全なのでしょうか?
答えは「YES」です。それも、かつてないレベルで安全です。
第三者機関からの圧倒的な高評価
車の安全性を客観的に評価する第三者機関のテストにおいて、ボルボは常に最高評価を獲得し続けています。
- ユーロNCAP(欧州): 近年テストされたほぼ全てのモデルで、最高の5つ星を獲得。
- IIHS(米国道路安全保険協会): 最も厳しい評価基準を持つことで知られるIIHSのテストでも、毎年最多クラスの「トップセーフティピック+」を受賞しています。
- JNCAP(日本): 日本の安全性能評価でも、常にトップクラスの成績を収めています。
これらの評価は、衝突時の乗員保護性能はもちろん、衝突を未然に防ぐ「予防安全性能」も高く評価されての結果です。
全車標準装備の先進安全技術「インテリセーフ」
ボルボは、ミリ波レーダーと高解像度カメラを組み合わせた先進安全・運転支援機能「インテリセーフ」を全車に標準装備しています。これには、以下のような機能が含まれます。
- City Safety(衝突回避・被害軽減ブレーキシステム): 車両、歩行者、サイクリスト、大型動物を検知し、衝突の危険があれば警告を発し、自動でブレーキを作動させます。
- パイロット・アシスト(運転支援機能): 高速道路などで、車線維持と先行車追従をサポートし、ドライバーの疲労を軽減します。
- BLIS(ブラインドスポット・インフォメーション・システム): 死角に他の車両がいる場合、ドアミラーのインジケーターで警告します。
これらの機能は、他メーカーでは高価なオプションであることが多いですが、ボルボは「安全はオプションであってはならない」という哲学のもと、全てのドライバーが享受できるようにしています。この姿勢こそが、ボルボの安全神話が今なお続いている証拠です。
昔の「四角いボルボ」とは違う?現代ボルボの魅力
「ボルボって、昔の角張ったワゴンのイメージしかない」という方も、まだいらっしゃるかもしれません。しかし、今のボルボはデザイン、走り、快適性の全てにおいて、そのイメージを完全に覆す魅力を備えています。
魅力1:洗練されたスカンジナビアンデザイン
前述の通り、現代ボルボの最大の魅力はそのデザインです。華美な装飾で高級感を演出するのではなく、シンプルでクリーンな線と面で構成されたエクステリアは、知性と品格を感じさせます。インテリアも同様で、天然の木材や手触りの良い素材を使い、まるで北欧のモダンなリビングのような、温かく居心地の良い空間が広がっています。
魅力2:静かで快適、そしてパワフルな走り
新世代プラットフォーム「SPA」を採用したモデルは、乗り心地が非常にしなやかで、長距離を移動しても疲れにくいのが特徴です。静粛性も極めて高く、車内はまるで外界から遮断されたかのような静けさに包まれます。 一方で、PHEV(プラグインハイブリッド)モデルやEVは、モーターによる力強い加速も味わえます。静かで快適なだけでなく、いざという時にはドライバーを昂らせる走りも兼ね備えているのです。
魅力3:直感的で使いやすいインターフェース
ボルボのセンターディスプレイには、Googleと共同開発した車載インフォテインメントシステムが搭載されています。これにより、GoogleマップやGoogleアシスタントがスマートフォンと同じような感覚で、しかもシームレスに使えます。「OK、Google」と話しかけるだけで、ナビの目的地設定やエアコンの温度調整などが可能です。物理ボタンを減らしながらも、直感的な操作性を実現している点は高く評価できます。
ドイツ御三家と比較してどう?ボルボを選ぶ独自の価値
新車購入を検討する際、多くの方が比較対象にするのがメルセデス・ベンツ、BMW、アウディの「ドイツ御三家」でしょう。では、彼らと比較してボルボを選ぶ価値はどこにあるのでしょうか。
ボルボ | メルセデス・ベンツ | BMW | アウディ | |
---|---|---|---|---|
ブランドイメージ | 安全、知的、クリーン、サステナブル | 高級、威厳、コンサバティブ | スポーティ、駆けぬける歓び、革新的 | 先進的、スタイリッシュ、クワトロ |
デザイン | スカンジナビアン、シンプル、温かみ | 華やか、エレガント | ダイナミック、筋肉質 | クール、未来的、シャープ |
乗り味 | 快適性重視、しなやか、静か | 重厚感、快適性 | ハンドリング重視、人馬一体 | 安定性、フラットライド |
安全性 | 業界最高水準(特に予防安全) | 高水準 | 高水準 | 高水準 |
独自の価値 | 人と環境への配慮、心地よい空間 | 圧倒的なブランド力、ステータス | 運転の楽しさ、エンジンフィール | テクノロジー、四輪駆動技術 |
簡単に言えば、ボルボは「見せるための高級」ではなく「自分のための豊かさ」を求める人に最適な選択です。威圧感を与えるのではなく、乗る人にも、周りの人にも、そして環境にも優しい。そんな独自の立ち位置が、ボルボ最大の魅力と言えるでしょう。
ボルボの中古車市場での価値は?リセールバリューを考察
車を所有する上で、リセールバリュー(再販価値)は重要な要素です。かつてのボルボは、中古車になると大きく値下がりするイメージがありましたが、現在は状況が大きく改善しています。
デザインが一新された2016年以降のXC90や、その後に続いたXC60、XC40といった人気SUVモデルは、中古車市場でも高い人気を維持しており、年式や走行距離にもよりますが、3年後の残価率が50%を超えることも珍しくありません。これは、同クラスのドイツ車と比較しても遜色のない、あるいはそれ以上の水準です。
高いリセールバリューは、すなわち中古車市場での需要が高いことの証です。それは、ボルボのブランド価値が世間に認められ、多くの人が「中古でもボルボに乗りたい」と考えていることを示しています。
EV失敗で経営はボロボロ?数字で見るボルボの現在と未来
「ボルボはEV化に舵を切ったものの、市場の減速で失敗し、大規模なリストラに追い込まれている」…こんなニュースを目にして、経営の先行きを不安に思う方も多いでしょう。ここでは、ボルボの電動化戦略と経営の現状について、客観的な数字を元に解説します。

EV戦略は本当に失敗?販売台数と市場の反応
まず、ボルボの電動化戦略が「失敗」というのは正確ではありません。むしろ、業界の中では着実に成果を上げています。
2023年のボルボの世界販売台数は、過去最高の70万8,716台を記録しました。その中で、EV(電気自動車)の販売台数は前年比70%増の11万3,419台に達し、全販売台数に占めるEVの割合は16%となりました。これは、多くの自動車メーカーの中でも高い比率です。
PHEVを含めた電動化モデルは好調
さらに、PHEV(プラグインハイブリッド)も好調で、EVとPHEVを合わせた電動化モデルの販売台数は、全体の約4割に迫る勢いです。市場では、まだ充電インフラなどに不安を感じる層が多いため、自宅で充電でき、いざとなればガソリンでも走れるPHEVが現実的な選択肢として支持されています。ボルボは、このPHEVのラインナップが非常に充実している点も強みです。
市場全体のEV成長率が鈍化しているのは事実ですが、ボルボは「2030年までに販売する全ての新車をEVにする」という目標を堅持しています。これは、長期的な視点に立った揺るぎないコミットメントの表れです。
大量リストラの真相は?EVシフトに伴う構造改革の実態
2023年から2024年にかけて、ボルボが数千人規模の人員削減を行ったというニュースが報じられました。これだけを聞くと「経営が危ないのでは?」と心配になるのも無理はありません。
しかし、このリストラは、経営不振によるものではなく、電動化とソフトウェア重視の時代に対応するための「構造改革」の一環です。自動車業界は今、100年に一度の大変革期にあります。従来のエンジン開発に必要な人材と、これからのEVや自動運転に必要なソフトウェア開発の人材は、全く異なります。
ボルボは、組織をよりスリムで効率的なものにし、浮いたコストをEVやソフトウェア開発といった未来の領域に再投資するために、苦渋の決断を下したのです。これは、ボルボだけでなく、フォルクスワーゲンやGMといった世界の巨大メーカーも同様に行っている、未来へ生き残るための「筋肉質な体質」への転換なのです。
トランプ関税の影響は?生産拠点のグローバル化でリスク分散
もし、アメリカで再びトランプ政権が誕生し、中国製品に高関税が課された場合、中国に生産拠点を持つボルボは大きな打撃を受けるのではないか?という懸念も聞かれます。
しかし、前述の通り、ボルボは生産拠点を世界中に分散させています。
- アメリカ向け: 主力モデルはアメリカのサウスカロライナ工場やベルギーのヘント工場から供給。
- 欧州向け: スウェーデンやベルギーの工場がメイン。
- アジア向け: 中国工場が中心。
このように、販売する地域に合わせて最適な工場から供給する「地産地消」に近い体制を整えることで、関税リスクを最小限に抑える戦略をとっています。実際に、小型EVのEX30は当初中国でのみ生産されていましたが、欧米での需要の高さと関税リスクを考慮し、2025年からベルギーのヘント工場でも生産を開始することを決定しています。この柔軟な対応力こそ、グローバル企業としてのボルボの強みです。
財務状況を徹底解剖!売上高と利益率の推移
企業の健全性を測る上で、最も重要なのが財務状況です。ボルボの近年の業績を見てみましょう。
2021年 | 2022年 | 2023年 | |
---|---|---|---|
売上高 | 2,820億SEK | 3,301億SEK | 3,993億SEK |
営業利益 | 203億SEK | 179億SEK | 256億SEK |
営業利益率 | 7.2% | 5.4% | 6.4% |
世界販売台数 | 69.8万台 | 61.5万台 | 70.8万台 |
※SEK = スウェーデン・クローナ
2022年は半導体不足やサプライチェーンの混乱で一時的に販売台数と利益率が落ち込みましたが、2023年には売上高、営業利益、販売台数の全てで過去最高を更新しています。特に、売上高は右肩上がりで成長を続けており、「経営がボロボロ」というイメージとは程遠い、非常に健全な財務状況であることが分かります。
ポールスターとの関係は?パフォーマンスブランドの現状
ボルボの電動化戦略を語る上で欠かせないのが、ハイパフォーマンスEVブランド「ポールスター」の存在です。元々はボルボのレース部門でしたが、現在は独立した上場企業となっています。
一時期、ボルボはポールスターの筆頭株主として資金提供を行っていましたが、2024年にその関係性を見直しました。ボルボはポールスターへの資金提供を終了し、保有する株式の多くを他の株主(主に親会社の吉利汽車)に分配することを決定したのです。
これを「ポールスターを見捨てた」とネガティブに捉える報道もありましたが、実態は異なります。ボルボは自社のEV開発にリソースを集中させ、ポールスターは独立したブランドとして、より自由に、より迅速に事業を展開していくための、いわば「前向きな親子関係の解消」です。研究開発などにおける協力関係は今後も継続されます。
新型EV「EX30」「EX90」は起爆剤になるか?スペックと評価
ボルボの未来を占う上で、最も重要なのがこれから市場に投入される新型EVです。特に注目されているのが、コンパクトSUVの「EX30」と、フラッグシップSUVの「EX90」です。
都市型EVの決定版「EX30」
EX30は、ボルボ史上最もコンパクトなSUVであり、最も環境負荷が低いモデルです。
- 価格: 日本での販売価格は559万円からと、輸入車EVとしては戦略的な価格設定。
- 性能: 0-100km/h加速は3.6秒(ツインモーターモデル)と、スーパーカー並みの動力性能を誇ります。
- デザイン: シンプルを極めたミニマルな内外装は、新しい世代の価値観に響くデザインです。
- サステナビリティ: 内装にはリサイクル素材を多用し、生産から廃棄までのライフサイクル全体でのCO2排出量を大幅に削減しています。
すでに世界中で高い評価を得ており、ボルボの販売台数をさらに押し上げる起爆剤になることは確実視されています。
安全性の未来を体現する「EX90」
EX90は、ボルボのフラッグシップSUV「XC90」の後継となる3列シートの大型EVです。
- LiDAR搭載: 屋根の前方に搭載されたLiDAR(ライダー)をはじめ、多数のセンサーで周囲360度を監視。これにより、従来のシステムでは検知できなかった小さな障害物や、遠方の危険も察知可能になり、安全性が飛躍的に向上しています。
- ドライバー・モニタリング: 車内のカメラがドライバーの状態を常に監視し、居眠りや注意散漫を検知すると警告を発します。
- 究極のファミリーカー: 広大な室内空間と最高の安全性能を両立し、大切な家族を守るための究極の選択肢となるでしょう。
EX90は、ボルボが目指す「交通事故による死亡者・重傷者ゼロ」という未来に向けた、具体的な回答なのです。
電動化だけじゃない!ボルボのサステナビリティへの取り組み
ボルボが目指しているのは、単なる電動化ではありません。車に関わる全てのプロセスにおいて、環境負荷を低減する「サステナビリティ(持続可能性)」を追求しています。
- レザーフリー: 2030年までに、全てのEVで本革の使用を廃止することを宣言。ウールブレンドやリサイクル素材から作られた、高品質な代替素材を開発しています。
- リサイクル素材の活用: 車両に使用するプラスチックの25%をリサイクル素材にすることを目指しています。
- 工場のカーボンニュートラル化: 世界中の生産工場で、再生可能エネルギーの利用などを進め、CO2排出量ゼロを目指しています。
こうした活動は、車の性能やデザインといった目に見える部分だけでなく、企業の姿勢そのものに共感するユーザーを増やしています。環境問題への意識が高い現代において、ボルボのこの姿勢は、他のブランドにはない強力な魅力となっています。
まとめ
今回のレビューでは、ボルボにまつわる様々なネガティブなイメージや噂について、事実を元に検証してきました。
- オーナー層: 「変人」ではなく、「自分の価値観を持つ、知的で洗練された人々」に支持されている。
- 中国資本の影響: 品質低下はなく、むしろ豊富な資金を得てブランド力は飛躍的に向上した。開発・デザインの独立性は保たれている。
- 経営状況: EV戦略は着実に進んでおり、業績も過去最高を更新するなど絶好調。リストラは未来への投資のための構造改革である。
私自身、長年多くの車を乗り継いできましたが、現在のボルボほど、安全性、デザイン、快適性、そして環境への配慮といった要素が、高い次元でバランスしている車は他にないと感じています。それは、ドイツ車が持つステータスや、日本車が持つ信頼性とはまた違う、「乗る人の心と身体、そして未来を大切にする」という、一貫した哲学から生まれる独自の価値です。
もしあなたが、世間のイメージだけでボルボを選択肢から外しているのであれば、それは非常にもったいないことかもしれません。ぜひ一度、お近くのディーラーで最新のボルボに触れてみてください。きっと、あなたが抱いていたイメージが良い意味で裏切られ、その本質的な魅力に気づくはずです。