モータージャーナリスト兼コラムニストの二階堂仁です。今回も多く寄せられている質問にお答えしていきます。
この記事を読んでいる方は、「ボルボのEVって実際のところどうなんだろう?」「中国メーカーに買収されたり、リストラのニュースを聞いたりして、今購入するのは少し不安…」と感じているのではないでしょうか。

引用 : ボルボ公式画像 (https://www.volvocars.com/jp/)
私も実際にボルボのEVを所有し、日々その実力を肌で感じている一人として、その気になる気持ちはよくわかります。しかし、断片的な情報だけで判断してしまうのは、素晴らしい選択肢を見過ごすことになりかねません。
この記事を読み終える頃には、ボルボのEVが持つ独自の価値と、あなたのカーライフにおけるその将来性についての疑問が解決しているはずです。
記事のポイント
- 中国資本による品質への影響と実態
- テスラやBYDにはないボルボ独自の強み
- 経営不安の真相とEV戦略の将来性
- 今、ボルボEVを選ぶべき人の特徴

新しい車に乗り換える際、今乗っている愛車をどれだけ高く売却できるかは、次の車の選択肢にも大きく影響します。
私自身、一括見積もりサイトを活用したことで、ホンダヴェゼルからレクサスRXに乗り換えることができました。
ボルボEVを取り巻く懸念と現状の解説
新車の購入を検討する際、特にボルボのような伝統あるブランドが大きな変革期にあると聞けば、様々な不安が頭をよぎるのは当然のことです。
ここでは、多くの方が懸念している「中国資本の影響」「経営不振の実態」「EV戦略の遅れ」といった点について、ジャーナリストとして、そして一人のオーナーとしての視点から深く掘り下げて解説していきます。

引用 : ボルボ公式画像 (https://www.volvocars.com/jp/)
ボルボEVと中国資本(吉利汽車)の関係性|品質は低下したのか?
「ボルボはもう中国の車になった」という声を時折耳にしますが、これは事実を正確に捉えているとは言えません。確かに、2010年にボルボ・カーズは中国の浙江吉利控股集団(Geely Holding Group)の傘下に入りました。しかし、これは多くの人がイメージするような「技術やブランドの乗っ取り」とは全く異なります。
開発・設計の独立性は健在
まず最も重要な点は、ボルボの開発・設計、そして安全哲学の根幹は、今も変わらずスウェーデンのイェーテボリにある本社が担っているということです。吉利汽車は親会社として資金的なバックアップを行いますが、ボルボの車作りの本質に口を出すことはありません。
むしろ、吉利汽車の潤沢な資金を得たことで、ボルボはリーマンショック後の厳しい経営状況から脱却し、SPA(スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャ)やCMA(コンパクト・モジュラー・アーキテクチャ)といった新世代プラットフォームを開発するための大規模な投資が可能になりました。現在のボルボの魅力的なラインナップは、この戦略的パートナーシップがあったからこそ実現できたと言えるでしょう。
品質管理はボルボ基準
生産拠点については、ベルギーやスウェーデンに加え、中国にも工場があります。しかし、どの工場で生産された車両であっても、品質管理基準は全てスウェーデンのボルボ本社が定めたグローバル基準に則っています。いわゆる「チャイナ・クオリティ」を心配する必要は全くなく、世界中のどこで生産されても、それは紛れもなく「ボルボ品質」の車なのです。
実際に私の所有するボルボEVも、内外装のチリ(部品同士の隙間)の精度や塗装の質、内装の組み立て精度など、伝統的なプレミアムブランドにふさわしい高い品質を維持しています。
ボルボEVと経営不振|大量リストラのニュースは本当か?
最近、ボルボが大規模なリストラを行ったというニュースが報じられ、経営状況を心配する声が上がっています。これは事実であり、主にソフトウェア開発部門などを中心に人員削減が行われました。しかし、この背景を理解することが重要です。
EVシフトの過渡期における「選択と集中」
現在の自動車業界は、100年に一度の大変革期にあります。特にEVへのシフトは、従来のエンジン車の開発とは全く異なるスキルセット、特にソフトウェア開発の能力が求められます。
ボルボは、この変革に対応するために外部のIT企業にソフトウェア開発を委託していましたが、開発の遅れや品質の問題が浮上しました。そこで、自社内での開発体制を強化・再編するために、一度組織をスリム化し、必要な人材を再配置するという「選択と集中」を行ったのが、今回のリストラの実態です。
これはボルボに限った話ではなく、フォルクスワーゲンやメルセデス・ベンツといった他の欧州メーカーも同様の課題に直面し、組織再編を進めています。EV時代の覇権を握るための、いわば「産みの苦しみ」であり、将来を見据えた健全な経営判断と捉えることもできるのです。
ボルボEVのラインナップと電動化戦略
「ボルボはEVで出遅れている」というイメージを持つ方もいるかもしれませんが、実はボルボはプレミアムブランドの中でも比較的早い段階から電動化を推進してきました。2030年までに販売する全ての新車をEVにするという明確な目標を掲げており、その戦略は着実に進行しています。
現在、日本市場では以下の3車種のEVがラインナップされています。
- EX30: ボルボ史上最もコンパクトなSUV。都市部での取り回しの良さと、サステナブルな素材を多用した革新的なインテリアが特徴。0-100km/h加速は3.6秒と、スーパーカー並みの動力性能も秘めています。
- C40 Recharge: 流麗なクーペスタイルが美しいクロスオーバーEV。デザイン性を重視しつつ、SUVの実用性も兼ね備えています。
- XC40 Recharge: C40の兄弟車にあたる、よりオーソドックスなSUVスタイルのEV。広い室内空間と視界の良さが魅力です。
これらのモデルは、いずれもボルボが長年培ってきた安全性とデザイン性をEVという新しい形で表現したものであり、決して他社の後追いで作られたモデルではないことが分かります。
ボルボEVとポールスターとの関係性
ボルボのEVを語る上で、姉妹ブランドである「ポールスター」の存在も無視できません。元々ボルボの公式パフォーマンス部門であったポールスターは、現在ではボルボと吉利汽車の共同出資による独立したプレミアムEVブランドとなっています。
両社はプラットフォームや技術の一部を共有しつつも、明確なブランドの棲み分けを行っています。
- ボルボ: 安全性、快適性、サステナビリティを重視したスカンジナビアン・ラグジュアリー。
- ポールスター: パフォーマンス、最先端技術、アバンギャルドなデザインを追求したEV。
この関係性は、フォルクスワーゲンにおけるアウディやポルシェのようなものと考えると分かりやすいでしょう。互いに技術を高め合いながら、異なる価値観を持つユーザーにアプローチしており、グループ全体としてEV市場での存在感を高める戦略と言えます。
ボルボEVが他メーカー(テスラ・BYD)より優れている点
では、具体的にボルボのEVは、EV市場のベンチマークであるテスラや、急速にシェアを拡大しているBYDといったライバルと比較して、どのような優位性を持っているのでしょうか。スペックの数字だけでは見えてこない、ボルボならではの魅力を深掘りします。
引用 : 価格コム HP (https://kakaku.com/item/K0001215150/)
ボルボEVの強み①:思想から異なる「安全性能」
ボルボと言えば「安全」というイメージが定着していますが、それはEVになっても揺らぐことはありません。むしろ、EVならではのリスクを考慮した、さらに高度な安全性を追求しています。
「事故が起きてから」ではなく「事故を起こさせない」思想
テスラの「オートパイロット」は非常に高度な運転支援システムですが、その思想はあくまでドライバーの操作をアシストするものです。一方、ボルボの安全思想は、「2030年までに、新しいボルボ車での死亡者や重傷者をゼロにする」という壮大なビジョンに基づいています。
その実現のために、最新の「EX30」やフラッグシップSUV「EX90」には、オプションで「LiDAR(ライダー)」と呼ばれる高性能センサーを搭載できます。これは、カメラとミリ波レーダーに加えて、レーザー光を使って周囲の状況を立体的に、かつ極めて正確に把握する技術です。これにより、暗闇や悪天候下でも歩行者や障害物を高い精度で検知し、衝突の危険を予測して自動ブレーキを作動させることができます。
カメラ映像のAI解析を主とするテスラのアプローチとは異なり、複数の異なるセンサーで多重に監視する「フェイルセーフ」の思想が根底にあり、万が一の際の信頼性が大きく異なります。
万が一の際の乗員保護
EVは床下に重いバッテリーを搭載しているため、側面衝突時の乗員保護が非常に重要になります。ボルボは、長年の衝突安全研究の知見を活かし、バッテリーパックを頑丈なセーフティケージで保護するとともに、衝撃を効果的に吸収・分散させるボディ構造を設計しています。これも、新興メーカーにはない、伝統的な自動車メーカーならではの強みです。
ボルボEVの強み②:心地よさを追求した「北欧デザインとサステナブルな内装」
テスラやBYDのインテリアが、良くも悪くも「未来的」「デジタル的」であるのに対し、ボルボのインテリアは「心地よさ」と「安らぎ」を追求している点が大きく異なります。

引用 : ボルボ公式画像 (https://www.volvocars.com/jp/)
スカンジナビアン・デザインの真髄
華美な装飾を徹底的に排除し、シンプルながらも素材の質感や温かみを重視したデザインは、まさに北欧デザインそのものです。スイッチ類を極力減らし、大型のセンターディスプレイに機能を集約している点はテスラと似ていますが、ボルボの空間にはどこか人間的な温もりが感じられます。
環境への配慮と新しいラグジュアリーの提案
ボルボは、動物福祉の観点から、将来的に全てのEVで本革を使用しない「レザーフリー」を宣言しています。その代わりに採用されているのが、リサイクル素材から作られたファブリックや、認証を受けた森林から採取された木材、あるいはウールをブレンドした高級感のあるテキスタイルです。
これは単なるコストダウンではなく、「サステナビリティ(持続可能性)こそが新しい時代のラグジュアリーである」というボルボの明確な哲学の表れです。環境意識の高いユーザーにとって、この点は大きな魅力となるでしょう。
ボルボEVの強み③:直感的で使いやすい「インフォテインメントシステム」
EVの使い勝手を大きく左右するのが、車載インフォテインメントシステムです。この点において、ボルボは非常に優れたソリューションを提供しています。
Googleとの共同開発
ボルボのEVには、Googleと共同開発した車載OS「Android Automotive OS」が標準で搭載されています。これにより、多くの人がスマートフォンで使い慣れている「Google マップ」「Google アシスタント」「Google Play ストア」が、車両のシステムに完全に統合されています。
- Google マップ: 目的地を設定すれば、到着時のバッテリー残量を予測し、必要であれば充電スポットを経由するルートを自動で提案してくれます。この精度は非常に高く、EVにおける「電欠の不安」を大幅に軽減してくれます。
- Google アシスタント: 「OK、Google。エアコンの温度を22度にして」といったように、声だけで車両の様々な機能を操作できます。運転中の視線移動を最小限に抑えられ、安全性にも貢献します。
- Google Play ストア: 対応するアプリをダウンロードして、機能を拡張できます。
テスラが独自のOSとマップを採用しているのに対し、多くの人にとって馴染み深いGoogleのシステムを使えることは、デジタル機器が苦手な人にとっても大きなアドバンテージとなります。
ボルボEVと競合モデルの比較表
ここで、主要な競合モデルとのスペックを比較してみましょう。今回は、最も競争の激しいコンパクトSUVセグメントで比較します。
車種 | 本体価格(税込) | 航続距離(WLTC) | 0-100km/h加速 | 全長×全幅×全高 | 特徴 |
---|---|---|---|---|---|
ボルボ EX30 Ultra | 6,290,000円 | 480 km | 3.6秒 | 4235×1835×1550mm | 北欧デザイン、サステナブル内装、Google搭載 |
テスラ Model Y RWD | 5,637,000円 | 507 km | 6.9秒 | 4751×1921×1624mm | 圧倒的な航続距離と加速、独自の充電網 |
BYD ATTO 3 | 4,500,000円 | 470 km | 7.3秒 | 4455×1875×1615mm | 圧倒的なコストパフォーマンス、V2L対応 |
※価格やスペックは2025年8月時点のものです。
表を見ると、価格や航続距離といったスペック面では、各社一長一短があることがわかります。テスラは航続距離と独自のスーパーチャージャーネットワークが強み。BYDは圧倒的な価格競争力が魅力です。
一方でボルボEX30は、コンパクトなボディサイズにも関わらず、スーパーカー並みの加速性能を持ち、デザイン性や内装の質感、そして何より「安全性」という数値では表せない価値を提供しています。
ボルボEVの強み④:伝統的な自動車メーカーならではの「走行性能と乗り心地」
加速性能だけがEVの魅力ではありません。ボルボは長年、快適で安全な長距離移動を可能にする車作りを追求してきました。そのノウハウはEVにもしっかりと受け継がれています。
静粛性は非常に高く、路面の凹凸をしなやかにいなすサスペンションのセッティングは、まさに欧州プレミアムブランドのそれです。ダイレクトでスポーティな乗り味のテスラとは対照的に、ボルボはどこまでも快適でリラックスできる移動空間を提供してくれます。
この「走りの質感」は、ぜひ試乗して体感していただきたいポイントです。スペックシートを眺めているだけでは決してわからない、ボルボEVの奥深い魅力がそこにあります。
まとめ
さて、ここまでボルボEVを取り巻く懸念点と、ライバルにはない独自の魅力について詳しく解説してきました。
中国資本やリストラのニュースは、確かに不安要素かもしれません。しかしその実態は、ボルボが100年に一度の変革期を乗り越え、次の時代も「安全で、サステナブルな」車を提供し続けるための、前向きな変化の過程であると私は捉えています。
ボルボのEVは、単にエンジンをモーターに置き換えただけの車ではありません。 「人の命を守る」という揺るぎない哲学。 「心地よい空間を提供する」という北欧のデザイン思想。 「地球環境に配慮する」という未来への責任。
これら全てが融合した、非常にインテリジェントで、そして人間味あふれるモビリティです。
もしあなたが、車のスペックや速さだけではなく、移動する空間そのものの質や、ブランドが持つ哲学、そして万が一の際の絶対的な安心感を重視するのであれば、ボルボのEVは間違いなくあなたの期待に応えてくれるはずです。
テスラやBYDも素晴らしいEVですが、ボルボには彼らにはない「温かみ」と「歴史に裏打ちされた信頼」があります。ぜひ一度、先入観を捨ててディーラーに足を運び、その真価をご自身の目で確かめてみてください。きっと、新しい発見があるはずです。