モータージャーナリスト兼コンサルタントの二階堂仁です。今回も多く寄せられている質問にお答えしていきます。
この記事を読んでいる方は、トヨタの高級ミニバン「ヴェルファイア」に対して、世間が抱く「ガラが悪い」「ヤンキーが乗る車」といったネガティブなイメージについて、その理由や実際のところどうなのかが気になっていると思います。私も実際にヴェルファイアを所有し、日々その走りや快適性を楽しんでいますが、時折そういったイメージで見られることもあり、気になる気持ちはよくわかります。
引用 : TOYOTA HP (https://toyota.jp/vellfire/grade/)
しかし、なぜそのようなイメージが定着してしまったのでしょうか。そして、フルモデルチェンジを果たした新型ヴェルファイアは、そのイメージを払拭できたのでしょうか。
この記事を読み終える頃には、ヴェルファイアのイメージに関する長年の疑問が解決し、アルファードとの違いも明確に理解できているはずです。
記事のポイント
- ヴェルファイアの攻撃的なデザインの意図
- 過去のカスタム文化とイメージの定着
- アルファードとの明確なキャラクター分け
- 新型ヴェルファイアが目指した新たな価値

新しい車に乗り換える際、今乗っている愛車をどれだけ高く売却できるかは、次の車の選択肢にも大きく影響します。
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ヴェルファイアのイメージが「悪い」と言われる理由の深掘り
「ヴェルファイア」と聞くと、一部で「ガラが悪い」「DQN」「ヤンキー御用達」といった言葉が連想されることがあります。特に、車の購入を検討している方にとっては、こうした世間的なイメージは無視できない要素でしょう。私自身もオーナーとして、なぜそのようなイメージが根付いてしまったのか、長年分析してきました。ここでは、その理由を多角的に深掘りしていきます。

引用 : TOYOTA HP (https://toyota.jp/vellfire/grade/)
オラオラ顔と評される攻撃的なフロントデザインのインパクト
[画像: 初代ヴェルファイアのフロントマスクの画像]
ヴェルファイアのイメージを語る上で最も象徴的なのが、その「顔つき」、つまりフロントデザインです。特に2008年に登場した初代モデルから採用されている二段構えのヘッドライトは、当時のミニバン市場に衝撃を与えました。
兄弟車であるアルファードが、一体感のある大型ヘッドライトで落ち着きや品格を表現していたのに対し、ヴェルファイアはヘッドライトを上下に分割し、鋭く吊り上がったようなデザインを採用しました。これは、人間の心理において「細い目」「吊り上がった目」が怒りや威嚇といった感情を連想させる効果を狙ったものです。
この「オラオラ顔」とも評される挑戦的でアグレッシブなデザインは、トヨタの明確な戦略でした。「高級ミニバン市場において、品格や落ち着きを求める層(アルファード)とは別に、力強さや個性を求める若いファミリー層や男性ユーザーを取り込みたい」という狙いがあったのです。
この戦略は見事に成功し、ヴェルファイアは従来のミニバンのイメージを覆す存在として、市場に確固たる地位を築きました。しかし、その一方で、この攻撃的なデザインが「威圧感がある」「好戦的に見える」といった印象を与え、「ガラが悪い」というイメージの源流になったことは否定できません。
「ヤンキーに好まれた」と言われる歴史的背景とカスタム文化
ヴェルファイアのイメージを語る上で、カスタム文化の影響は外せません。1990年代から2000年代にかけて、「VIPカー」と呼ばれる高級セダンをベースにしたカスタムが流行しました。その特徴は、
- ローダウン(車高短)
- 大径ホイール
- フルエアロパーツ
- 爆音マフラー
といった、車の存在感を極限まで高める手法です。このVIPカースタイルを好んだのが、いわゆる「ヤンキー」と呼ばれる若者層でした。
その後、彼らが家庭を持つ年代になり、セダンから多人数が乗れるミニバンへと乗り換える際に、そのカスタム文化がそのままミニバンに持ち込まれました。特に、ヴェルファイアの持つ攻撃的なデザインと、広大な室内空間によるカスタムのしやすさは、彼らの価値観と見事に合致したのです。
黒塗りのボディに、地面スレスレまで下げられた車高、ギラギラと輝くメッキパーツや大径ホイール、そして夜間に青白く光る室内イルミネーション。こうしたカスタムを施されたヴェルファイアが街中を走る姿は、多くの人にとって「威圧的」であり、「近寄りがたい」存在として映りました。これが「ヴェルファイア=ヤンキーの車」というイメージを決定づける大きな要因となったのです。
一部のオーナーによる煽り運転などの迷惑行為
これはヴェルファイアに限った話ではありませんが、残念ながら一部のドライバーによる迷惑行為が、車種全体のイメージを低下させている側面があります。

引用 : TOYOTA HP (https://toyota.jp/vellfire/grade/)
特に、ヴェルファイアのような大型で威圧感のあるデザインの車が、車間距離を詰めたり、強引な割り込みをしたりする姿は、周囲のドライバーに強い恐怖心を与えます。ドライブレコーダーの普及により、こうした「煽り運転」の映像がニュースやSNSで拡散される機会が増えましたが、その映像にヴェルファイア(やアルファード)が登場する頻度が高かったことも、ネガティブなイメージの定着に拍車をかけました。
実際には、ほとんどのヴェルファイアオーナーは安全運転を心がけている善良なドライバーです。しかし、人間はネガティブな情報ほど記憶に残りやすい「ネガティビティ・バイアス」という心理的傾向を持っています。そのため、ごく一部の悪質なドライバーの行いが、車種全体のイメージとして固定化されてしまったのです。
メディアやSNSによる「ガラが悪い」イメージの増幅
テレビドラマや映画、漫画などで「悪役」や「反社会的勢力」の乗り物として、黒塗りの大型ミニバンが描かれることがよくあります。こうしたメディア表現は、視聴者に対して「黒の大型ミニバン=怖い人たちが乗る車」というステレオタイプを無意識のうちに植え付けます。
また、SNSの普及もこのイメージを加速させました。「#DQNの車」「#煽り運転」といったハッシュタグと共に、派手にカスタムされたヴェルファイアや、マナーの悪い運転をする車両の写真・動画が投稿されることで、「ヴェルファイアはガラが悪い」というイメージが瞬く間に拡散・再生産されていきます。
このように、メディアやSNSが作り出すイメージは、現実の一部を切り取って誇張したものであることが多いですが、その影響力は絶大で、人々の潜在意識に深く刷り込まれてしまうのです。
アルファードとの明確なキャラクター分け戦略の結果
[画像: アルファードとヴェルファイアが並んでいる画像]
初代から一貫して、トヨタはアルファードとヴェルファイアに明確なキャラクター分けを行ってきました。
- アルファード: 王道、品格、フォーマル、優雅
- ヴェルファイア: 反骨、個性、アグレッシブ、クール
販売チャネルも、アルファードは「トヨペット店」、ヴェルファイアは若者向けの「ネッツ店」と分けられていました(現在は全店舗で併売)。この戦略により、ヴェルファイアは「やんちゃな弟分」という立ち位置を確立しました。
このキャラクター分けは、幅広い顧客層を獲得するという点で大成功を収めましたが、同時に「品格のアルファード、やんちゃのヴェルファイア」という対比構造を生み出しました。この対比が、世間的に「アルファードの方が上品で、ヴェルファイアは少しガラが悪い」という認識につながった側面もあります。
特に30系後期モデルでは、アルファードの販売台数がヴェルファイアを大きく上回るようになり、「多数派=王道=良い」「少数派=異端=悪い」という単純なイメージの固定化も進んだと考えられます。
大きなボディサイズが物理的に与える威圧感
ヴェルファイアの全長は約5m、全幅は約1.85mにも及びます。この堂々としたサイズは、室内の広さや衝突安全性の高さに貢献する一方で、物理的な威圧感も生み出します。
狭い道で対向車として出会ったり、駐車場の隣に停まっていたりするだけで、その大きさに圧倒される人も少なくありません。特に、コンパクトカーや軽自動車に乗っているドライバーから見れば、黒いヴェルファイアがバックミラーに映るだけでプレッシャーを感じることもあるでしょう。
この物理的な威圧感が、前述した攻撃的なデザインやカスタムのイメージと結びつくことで、「怖い」「近寄りたくない」という感情を増幅させているのです。
中古車市場での価格下落と若年層への普及
高級ミニバンであるヴェルファイアも、モデルチェンジを重ねることで、旧モデルの中古車価格は徐々に下がっていきます。特に、初代(20系)や2代目(30系前期)のモデルは、100万円台から購入できる個体も増えてきました。
これにより、新車では手が出なかった若者層でも、ヴェルファイアを所有しやすくなりました。彼らの中には、限られた予算の中で車を維持し、自分たちのスタイルでカスタムを楽しむ層も含まれます。結果として、派手なカスタムを施した旧型ヴェルファイアが再び街中で目立つようになり、過去の「ヤンキーの車」というイメージが再燃する一因にもなっています。
新型ヴェルファイアでイメージは変わったか?アルファードとの徹底比較
2023年、アルファードとヴェルファイアは4代目(型式40系)へとフルモデルチェンジを果たしました。世間が抱くネガティブなイメージを、新型は払拭できたのでしょうか。そして、兄弟車アルファードとはどのような違いがあるのでしょうか。オーナーとしての実体験も交えながら、徹底的に比較・解説します。
引用 : TOYOTA HP (https://toyota.jp/alphard/)
新型ヴェルファイアのデザインコンセプト「The Supercar-like Minivan」
[画像: 新型ヴェルファイアのフロントデザインのアップ画像]
新型ヴェルファイアは、単なる「オラオラ顔」から脱却し、新たなステージへと進化しました。開発陣が掲げたコンセプトは**「The Supercar-like Minivan(スーパーカーのようなミニバン)」**。そのデザインは、もはや威嚇や威圧を目的としたものではありません。
洗練されたアグレッシブさ
フロントマスクは、大型のメッキグリルが目を引きますが、30系後期のようなギラギラとしたメッキ一辺倒ではなく、スモークメッキや金属調のダークカラーを巧みに組み合わせることで、精悍で引き締まった印象を与えます。ヘッドライトも薄くシャープな形状となり、全体のシルエットはまるで弾丸のような躍動感に満ちています。これは、無駄な威圧感を削ぎ落とし、機能美と走りの良さを予感させる、洗練されたアグレッシブさと言えるでしょう。
空力性能を意識した機能美
サイドビューやリアデザインも、空気の流れを意識した造形となっており、見た目のカッコよさだけでなく、燃費や走行安定性といった機能性にも貢献しています。これは、単に見た目で「オラつく」のではなく、走りのパフォーマンスで魅せるという、新型ヴェルファイアの明確な意思表示です。
新型アルファードのデザインコンセプト「世界基準の快適性」
[画像: 新型アルファードのフロントデザインのアップ画像]
一方、新型アルファードのコンセプトは**「世界基準の快適性を備えた大空間高級サルーン」**です。そのデザインは、まさに王者の風格。
フロントグリルは、押し出し感を強調しながらも、ブロック状のパーツを組み合わせることで、非常に緻密でモダンな印象を与えます。全体のフォルムは、重厚感と安定感を重視しており、見るからに快適な移動空間であることが伝わってきます。ヴェルファイアが「動」のイメージなら、アルファードは「静」のイメージ。まさに企業の役員や海外のVIPを送迎するのにふさわしい、フォーマルで格調高いデザインです。
【表で比較】新型ヴェルファイアとアルファードのスペックの違い
両者の違いはデザインだけではありません。特に注目すべきは、走りの性能に関する部分です。
項目 | 新型ヴェルファイア | 新型アルファード | 備考 |
---|---|---|---|
グレード展開 | Z Premier, Executive Lounge | Z, Executive Lounge | ヴェルファイアは走りの「Z Premier」が中心 |
パワートレイン | 2.4L ターボ, 2.5L ハイブリッド | 2.5L ガソリン, 2.5L ハイブリッド | ヴェルファイア専用の2.4Lターボが高性能 |
最高出力 (ターボ/ガソリン) | 279PS (2.4L ターボ) | 182PS (2.5L ガソリン) | 圧倒的なパワー差 |
最大トルク (ターボ/ガソリン) | 43.8kgf・m (2.4L ターボ) | 24.0kgf・m (2.5L ガソリン) | 低回転から力強い加速を実現 |
ボディ剛性強化 | フロントパフォーマンスブレース装着 | なし | ハンドリング性能を向上させる専用パーツ |
サスペンション | 専用チューニング | 標準セッティング | よりスポーティで応答性の高い設定 |
タイヤサイズ | 19インチ (Z Premier) | 18インチ (Z), 17インチ | よりグリップ性能の高いタイヤを標準装備 |
価格帯 (Z Premier / Z) | 655万円~ | 540万円~ | ヴェルファイアの方が高価な設定 |
この表からもわかる通り、新型ヴェルファイアは、もはやアルファードの「やんちゃな弟分」ではありません。走りの性能を徹底的に追求した、もう一つのフラッグシップモデルへと昇格したのです。
走りに特化したヴェルファイアの専用装備「Z Premier」
私が所有しているのも、この「Z Premier」です。特筆すべきは、やはり2.4Lターボエンジンの存在でしょう。アクセルを踏み込んだ瞬間から、2トンを超える巨体をものともしない力強い加速をみせます。特に高速道路での合流や追い越しでは、ストレスなくスムーズに速度を乗せることができ、まさに「スーパーカーライク」な走りを体感できます。
さらに、ボディのねじれを抑制する**「フロントパフォーマンスブレース」**の効果は絶大です。カーブを曲がる際、ミニバン特有のグラっとするような揺れが大幅に軽減され、ハンドルを切った分だけ素直に車が曲がっていきます。これは、運転が好きな方にとっては非常に魅力的なポイントです。
乗り心地はアルファードに軍配?両者の違いを実体験レビュー
では、乗り心地はどうでしょうか。一般的には「アルファードの方が乗り心地が良い」と言われています。これは半分正解で、半分は誤解です。
- アルファードの乗り心地: 17インチまたは18インチのタイヤと標準サスペンションの組み合わせにより、路面からの細かな振動を巧みに吸収し、フワッとした優しい乗り心地を提供します。後席に乗る家族やゲストにとっては、この上なく快適な移動空間でしょう。
- ヴェルファイア(Z Premier)の乗り心地: 19インチタイヤと専用チューニングサスペンションにより、アルファードに比べると路面の凹凸をやや拾いやすく、少し硬めの乗り味に感じられます。しかし、これは不快な硬さではありません。路面の状況がドライバーに的確に伝わる、スポーティでフラットな乗り心地です。無駄な揺れが少ないため、車酔いしやすい方にとっては、むしろヴェルファイアの方が快適だと感じる可能性もあります。
結論として、後席での快適性を最優先するならアルファード、ドライバー自身の運転する楽しさと、引き締まった乗り心地を重視するならヴェルファイアという選択になるでしょう。
リセールバリューはどっちが高い?将来的な価値を予測
リセールバリュー(再販価値)は、車を所有する上で重要な要素です。これまでの傾向では、圧倒的に販売台数の多いアルファードの方が、中古車市場での需要も高く、リセールバリューも高い水準で推移してきました。
しかし、新型では状況が変わる可能性があります。
- 生産台数の絞り込み: 新型ヴェルファイアは、アルファードに対して生産比率が低く設定されています。つまり、市場に出回る台数が少ないため、希少価値が高まる可能性があります。
- 独自の魅力: 「走りの良さ」という明確な個性を手に入れたことで、特定のファン層からの強い支持が期待できます。特に2.4Lターボエンジンはヴェルファイア専用であり、この走りを求めるユーザーからの需要は安定するでしょう。
- 海外での人気: 東南アジアなどの海外市場では、依然として「強そうな顔」のデザインが好まれる傾向があります。ヴェルファイアの輸出需要が高まれば、国内の中古車価格も高値で維持される可能性があります。
もちろん、絶対的な王者のアルファードが有利であることは変わりませんが、新型ヴェルファイアも、これまでにない高いリセールバリューを維持するポテンシャルを秘めていると、私は分析しています。
今、ヴェルファイアを選ぶべき人、アルファードを選ぶべき人
これまでの情報を踏まえ、あなたがどちらの車を選ぶべきか、コンサルタントとして結論を示します。
新型ヴェルファイアをおすすめする人
- ミニバンでも運転を楽しみたい、走りにこだわりたい人
- 他の人とは違う、個性的な選択をしたい人
- 洗練されたスポーティなデザインが好みの人
- 「スーパーカーのようなミニバン」というコンセプトに共感する人
新型アルファードをおすすめする人
- 後席の同乗者の快適性を最優先したい人
- フォーマルな場面でも使える、品格のある車を求めている人
- 王道であり、最も多くの人に支持される安心感を重視する人
- 優雅で落ち着いた乗り心地が好みの人
もはや、両者の間に「どちらが上でどちらが下か」という序列はありません。それぞれが異なる頂点を目指した、対等なフラッグシップなのです。
まとめ
今回は、ヴェルファイアのイメージがなぜ「悪い」と言われるのか、その歴史的背景から新型モデルの魅力まで、深く掘り下げてきました。
かつてのヴェルファイアが、その攻撃的なデザインとカスタム文化によって「ガラが悪い」というイメージを定着させてしまったのは事実です。しかし、それはあくまで過去の話。
2023年に登場した40系・新型ヴェルファイアは、単なる威圧感ではなく、「走り」という新たな価値観を身にまといました。専用の2.4Lターボエンジンと、ボディ剛性を高める専用パーツによって実現されたその走りは、もはやアルファードの影を追うものではなく、独自の輝きを放っています。
世間的なイメージや過去の評判に惑わされる必要はありません。大切なのは、ご自身の目で実車を見て、試乗して、その本質を感じ取ることです。新型ヴェルファイアは、これまでのイメージを鮮やかに裏切る、素晴らしいドライビング体験を提供してくれるはずです。
このレビューが、あなたの最適な一台を見つけるための一助となれば幸いです。