モータージャーナリスト兼コンサルタントの二階堂仁です。今回も多く寄せられてる質問にお答えしていきます。
この記事を読んでいる方は、日本が世界に誇るスーパーカー、レクサスLFAにまつわる様々な逸話や開発の裏側について、深く知りたいと思っているのではないでしょうか。

引用 : レクサスHP (https://lexus.jp/)
私もLFAを所有する一人として、その特別な物語に魅了された人間ですから、そのお気持ちは痛いほどよくわかります。単なる高性能な車というだけでなく、そこには技術者たちの熱い情熱と、数々のドラマが凝縮されているのです。
この記事では、LFAの開発秘話から、あまり知られていない裏話、そして幻のモデルに至るまで、徹底的に深掘りしていきます。
この記事を読み終える頃には、あなたがまだ知らないLFAの新たな側面に触れ、その魅力に対する理解がさらに深まっているはずです。
記事のポイント
- 10年に及ぶLFA開発プロジェクトの全貌
- アルミからカーボンへ、異例の設計変更の真相
- 天使の咆哮と称されるV10サウンドチューニングの秘密
- 採算度外視で追い求めた究極の性能と品質

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レクサスLFAの伝説を紐解く開発秘話
2010年12月から2012年12月までのわずか2年間で、世界限定500台が生産されたレクサスLFA。その誕生の裏には、10年という異例の長い歳月と、数々の困難を乗り越えた技術者たちの物語がありました。ここでは、LFAが伝説となるに至った開発の秘話に迫ります。

レクサスLFA 開発の原点:「F」の頂点を目指して
LFAの開発プロジェクトが正式にスタートしたのは2000年のこと。その根底にあったのは、「レクサスブランドを象徴する、世界最高レベルの運動性能と感性を両立した車を造りたい」という強い想いでした。当時、レクサスは高級車ブランドとして認知されていましたが、メルセデス・ベンツのAMGやBMWのMのような、ブランドの顔となる高性能なスポーツイメージが希薄でした。
そこで立ち上がったのが、後に「F」モデル(IS FやRC Fなど)へと繋がる、レクサスのハイパフォーマンスモデル開発プロジェクトです。LFAはそのピラミッドの頂点に君臨する「Fの頂点」として構想されました。
ライバルはフェラーリ
開発チームがベンチマークとしたのは、当時最新のフェラーリ 360モデナでした。単に速さで勝るだけでなく、官能的な走りや所有する喜びといった、感性の領域でフェラーリを超えることが目標とされました。プロジェクトは「LFA」というコードネームで呼ばれ、これは「Lexus Future Advance」の頭文字を取ったものとされていますが、「Lexus F-Series Apex」という意味合いも込められていたと言われています。
レクサスLFA 幻のアルミボディと突然の方針転換
プロジェクトは当初、オールアルミボディのFRスーパースポーツとして開発が進められていました。アルミは軽量かつ高剛性なボディを実現する上で有効な素材であり、トヨタとしても実績のある技術でした。実際に2005年と2007年のモーターショーでは、アルミスペースフレームを持つプロトタイプが公開されています。
しかし、開発が5年目に差し掛かった頃、当時の豊田章男副社長(現会長)の一声で、プロジェクトは根底から覆されることになります。
「今からボディをカーボンにできないか?」
ニュルブルクリンクでのテスト走行を重ねる中で、アルミボディの性能に限界が見え始めていました。より高い次元の運動性能を実現するためには、さらなる軽量化と高剛性化が不可欠でした。そこで白羽の矢が立ったのが、当時F1の世界では常識となっていたカーボンファイバー(CFRP)です。
豊田氏は開発責任者であった棚橋晴彦氏に「今からでもボディをカーボンにできないか」と打診。これは、すでに完成間近だったアルミボディの設計をすべて白紙に戻すことを意味する、前代未聞の決断でした。開発期間の延長とコストの大幅な増大は避けられません。しかし、「世界一のスーパーカーを造る」という目標のため、チームはこの困難な挑戦に踏み切ったのです。
レクサスLFA 天使の咆哮を生んだV10サウンド
LFAを語る上で欠かせないのが、その官能的なエンジンサウンドです。「天使の咆哮」とまで称されるこのサウンドは、ヤマハとの共同開発によって生み出された奇跡の産物と言えるでしょう。

引用 : レクサスHP (https://lexus.jp/)
搭載されたのは、専用開発の4.8L V10「1LR-GUE」型エンジン。最高出力560PSを8,700rpmで発生し、9,000rpmまで許容する超高回転型ユニットです。このエンジンのサウンドをいかに魅力的に演出するか、開発チームは徹底的にこだわりました。
楽器メーカー・ヤマハの音響チューニング
エンジンサウンドの開発には、同じく楽器製造で世界的に知られるヤマハ発動機の技術者が深く関わりました。彼らは、単に不快なノイズを消すのではなく、心地よい倍音を際立たせる「サウンドチューニング」を施したのです。
具体的には、サージタンクの形状を工夫して特定の周波数の音を共鳴させたり、ダッシュボードに音を導くためのサウンドチャンネルを設けたりすることで、ドライバーを高揚させるサウンドを創り出しました。特に、エンジンから発せられる一次燃焼音、二次燃焼音、そして吸気音や排気音が複雑に絡み合い、まるでオーケストラのような重層的なサウンドスケープを形成しているのが特徴です。このサウンドへのこだわりこそ、LFAが単なる速い車ではなく、感性に訴えかけるスーパーカーであることの証明です。
レクサスLFA 異例の長期開発とニュルブルクリンクでの挑戦
前述の通り、LFAの開発期間は約10年にも及びました。これは通常の市販車開発の3倍近い期間です。アルミからカーボンへの設計変更が大きな要因ですが、それ以外にも、トランスミッションやサスペンションなど、あらゆるコンポーネントをゼロから開発したことも影響しています。
この長い開発期間の核となったのが、ドイツにあるサーキット「ニュルブルクリンク北コース」での走り込みでした。
「道が車を鍛える」聖地での開発
「ニュル」の愛称で知られるこのコースは、高低差300m、コーナー数170以上、全長約20kmにも及ぶ世界有数の過酷なサーキットです。トヨタは「道が車を鍛える」という思想のもと、LFAをこの地で徹底的に鍛え上げました。
さらに、開発の最終段階では、市販を前提としたプロトタイプでニュルブルクリンク24時間耐久レースに参戦するという、異例の試みが行われました。これは、極限状況下でマシンの信頼性と性能を証明するための挑戦でした。マスタードライバーとしてステアリングを握ったのは、プロドライバーに交じって「モリゾウ」の名でエントリーした豊田章男氏その人でした。このレース参戦で得られた貴重なデータは、市販モデルのLFAに余すことなくフィードバックされています。
レクサスLFA 織機から生まれたカーボン技術
LFAの最大の特徴であるカーボンモノコックボディ。これを自社生産するために、トヨタは新たな技術を開発する必要がありました。そこで活かされたのが、トヨタグループの祖業である「自動織機」の技術です。
カーボンファイバーを三次元的に編み込み、樹脂を注入して硬化させる「RTM(Resin Transfer Molding)」工法や、カーボンの糸を編み上げる「カーボンブレードマシン」は、まさに織機の技術の応用でした。これにより、複雑な形状と高い剛性を両立したカーボンパーツの量産が可能となり、結果的にLFAの生産に大きく貢献したのです。
レクサスLFA 採算度外視の価格設定の真実
LFAの新車価格は3,750万円。当時としては国産車史上最高額でしたが、それでも1台売るごとに赤字が出ると言われていました。カーボンボディの自社開発や、専用部品の多さ、そして限定500台という少量生産を考えれば、これは当然の結果だったのかもしれません。
しかし、トヨタにとってLFAは利益を追求するためのモデルではありませんでした。LFAの開発を通じて得られたカーボン加工技術や、極限の走りで培われたノウハウ、そして「レクサスでも世界一のスーパーカーが造れる」というブランドイメージの向上は、価格では計れない大きな財産となったのです。LFAは、未来のトヨタ・レクサス車への技術的な先行投資であり、ブランドの魂を宿すためのプロジェクトだったと言えるでしょう。
レクサスLFAの知られざる逸話と裏話
華々しい開発ストーリーの裏には、あまり表には出てこない興味深い逸話や裏話も数多く存在します。ここでは、LFAをさらに深く知るための、マニアックなトピックをいくつかご紹介します。

レクサスLFA 購入希望者への厳しい審査
限定500台という希少性から、LFAは希望すれば誰でも購入できたわけではありませんでした。レクサスは購入希望者に対して、いくつかの条件を提示し、審査を行っていたと言われています。
その目的は、短期的な転売目的での購入を防ぎ、本当にLFAの価値を理解し、長く大切にしてくれるオーナーに車を届けるためでした。審査基準の詳細は公表されていませんが、「レクサス車の所有歴」や「ブランドへの貢献度」などが考慮されたという説があります。実際に、購入時には一定期間の転売を禁止する契約を結んだとも言われています。このような姿勢からも、レクサスがLFAをいかに特別な存在として扱っていたかが伺えます。
レクサスLFA アナログタコメーター採用の理由
LFAのメーターパネルは、TFT液晶ディスプレイを採用した先進的なものですが、その中央に鎮座するタコメーターの動きは、実はアナログメーターの針の動きをデジタルで再現したものです。なぜなら、V10エンジンの回転上昇/下降のスピードがあまりにも速すぎるため、物理的な針では追従できなかったからです。
エンジンを空ぶかしした際、アイドリング状態からレブリミットの9,000rpmまで、わずか0.6秒で到達します。この驚異的なレスポンスを正確に表示するために、デジタル表示が不可欠だったのです。しかし、単なるデジタル表示ではなく、あえて伝統的な円形のタコメーターデザインを採用し、レブリミットに近づくとリングの色が変化するなどの演出を加えることで、視認性と高揚感を両立させている点は見事です。
レクサスLFA を愛した世界の有名人
LFAは、その唯一無二の魅力で世界中のセレブリティを虜にしました。イギリスの有名自動車番組「トップ・ギア」の元司会者であるジェレミー・クラークソンは、LFAを「今まで運転した中で最高のクルマ」と絶賛。また、アメリカの著名なコメディアンであり、カーコレクターとしても知られるジェイ・レノも、自身のコレクションにLFAを加えています。
その他にも、F1ドライバーやハリウッドスター、有名な実業家など、数多くの著名人がLFAのオーナーリストに名を連ねています。彼らがLFAを選んだ理由は、単なるステータスシンボルとしてではなく、その本質的な性能と芸術的なサウンドに心から惚れ込んだからに他なりません。
レクサスLFA 幻の派生モデルたち
500台の市販モデルの影で、残念ながら世に出ることのなかった幻の派生モデルが存在します。その代表格が「LFA ロードスター」です。
2008年のデトロイトモーターショーでコンセプトカーとして発表されたこのモデルは、クーペの流麗なスタイリングはそのままに、開放感あふれるオープンエアモータリングを可能にするものでした。もし市販されていれば、V10サウンドをダイレクトに感じられる、この上なく刺激的なモデルになっていたことは間違いありません。技術的な問題やコスト面から市販化は見送られましたが、今なお復活を望む声が絶えない魅力的な一台です。
この他にも、さらなる高性能化を目指したモデルや、異なるパワートレインを搭載したモデルなども水面下で検討されていたと言われています。
レクサスLFA 中古市場での驚異的な価格高騰
LFAは生産終了から10年以上が経過した現在、中古車市場で驚異的な価格高騰を見せています。新車価格3,750万円を大幅に上回り、状態の良い個体や走行距離の少ない個体は1億円を超える価格で取引されることも珍しくありません。
特に、50台限定で生産された「ニュルブルクリンクパッケージ」はさらに高値で取引されており、2億円近いプライスタグが付けられることもあります。この価格高騰の理由は、限定500台という希少性に加え、近年の自然吸気・大排気量エンジンの減少、そしてLFAが持つ唯一無二のストーリー性と芸術性が再評価されているためです。もはや単なる「中古車」ではなく、「自動車史に残る芸術品」として扱われているのです。
レクサスLFA 特別仕様「ニュルブルクリンクパッケージ」の全貌
LFAの中でも最も特別で、最も過激なモデルが、最終生産分のうち50台のみに設定された「ニュルブルクリンクパッケージ」です。これは、ニュルブルクリンク24時間耐久レースへの参戦から得られた知見を注ぎ込んだ、サーキット走行に特化したモデルです。
標準モデルとの主な違いは以下の通りです。
項目 | 標準モデル | ニュルブルクリンクパッケージ |
---|---|---|
最高出力 | 560PS / 8,700rpm | 571PS / 8,700rpm (+11PS) |
変速時間 | 0.2秒 | 0.15秒 (短縮) |
エアロパーツ | 可動式リアウイング | 固定式大型リアウイング、フロントスポイラー等 |
サスペンション | 標準セッティング | 専用ハードセッティング |
車高 | 標準 | 10mmダウン |
ホイール | 標準アルミホイール | 専用メッシュタイプアルミホイール |
タイヤ | 標準タイヤ | 専用ハイグリップタイヤ |
ボディカラー | 30色 | 4色 (オレンジ、ホワイテストホワイト、ブラック、マットブラック) |
これらの変更により、ニュルブルクリンク北コースのラップタイムは、標準モデルよりも大幅に短縮されました。まさに「走るため」に生まれた、究極のLFAと言えるでしょう。
レクサスLFA オーナーだけが知る維持費のリアル
LFAを所有することは、多くのカーマニアにとって夢ですが、その維持には相応の覚悟とコストが必要です。例えば、エンジンオイルは専用品で、交換費用は1回あたり十数万円に上ります。タイヤも特殊なサイズのため高価で、4本交換すれば数十万円は下りません。
また、万が一カーボンボディを損傷した場合、その修理は専門の施設で特殊な技術を用いて行われるため、修理費用は数百万、場合によっては1千万円を超えることもあります。もちろん、自動車税や任意保険料も車両価格に見合った高額なものになります。しかし、それらのコストを補って余りあるほどの感動と満足感を、LFAはオーナーに与えてくれるのです。
まとめ
今回は、レクサスLFAがなぜこれほどまでに人々を魅了し、伝説として語り継がれているのか、その開発秘話と知られざる逸話を通して深掘りしてきました。
LFAは、単なるスペックや速さだけでは語れない、日本のものづくりの魂が宿った特別な一台です。採算を度外視してでも世界一を目指した技術者たちの情熱、アルミからカーボンへと設計を覆す英断、そして「天使の咆哮」と称される芸術的なサウンド。そのすべてが絡み合い、LFAという奇跡のスーパーカーを生み出しました。
私自身、オーナーとしてステアリングを握るたびに、この車に込められた物語の重みと、開発者たちの熱い想いを感じずにはいられません。生産終了から時が経つほどにその価値は高まり、LFAの伝説はこれからも色褪せることなく輝き続けるでしょう。このレビューが、あなたのLFAへの理解をさらに深める一助となれば幸いです。