この記事を読んでいる方は、「一時代を築いた名車、トヨタ・セルシオの後継モデルは、現在のレクサスのどの車種なのだろう?」という点が気になっていると思います。

かつてセルシオのステアリングを握り、その圧倒的な静粛性や滑らかな走りに感銘を受けた方なら、なおさらその進化の先に何があるのか、気になる気持ちはよくわかります。私も実際に長年セルシオを愛車とし、その後レクサスブランドに移行した一人として、その歴史と血統の行方を見届けてきました。
この記事では、自動車コンサルタントとして、そして一人のオーナーとして、セルシオの正統な後継モデルがどの車種なのかを明確にし、セルシオから受け継がれた思想や技術、そして現代における進化のポイントを徹底的に解説します。
記事のポイント
- セルシオの正統な後継モデルは「レクサス LS」であること
- セルシオがレクサスブランドに統合された歴史的背景
- セルシオからLSへ受け継がれた「静粛性」と「乗り心地」への異常なまでのこだわり
- 現代のLSが遂げた独自の進化と、セルシオの面影を感じるポイント

新しい車に乗り換える際、今乗っている愛車をどれだけ高く売却できるかは、次の車の選択肢にも大きく影響します。
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このレビューを読み終える頃には、セルシオとレクサスLSの繋がり、そしてその血統がどのように現代に受け継がれているのかという疑問が、明確に解決しているはずです。
セルシオという伝説のクルマとその功績
まず、後継モデルを語る上で欠かせないのが、セルシオがいかに偉大なクルマであったかという点です。セルシオの存在なくして、現在のレクサスは語れません。ここでは、セルシオが日本の、いや世界の自動車史に刻んだ大きな足跡を振り返ってみましょう。
セルシオとは?日本が世界に誇った高級車の誕生
トヨタ・セルシオは、1989年(平成元年)に誕生したトヨタの最高級セダンです。「世界最高水準の高級車」を目標に、当時のトヨタが持てる技術のすべてを注ぎ込んで開発されました。その開発思想は徹底しており、「源流主義」という言葉に象徴されるように、エンジンやサスペンションといった基幹部品はもちろん、ネジ一本に至るまで、すべてをゼロから新開発するという、前代未聞のプロジェクトでした。
このクルマは、日本国内では「セルシオ」として販売されましたが、ほぼ同じ仕様で、海外では新たに立ち上げられたプレミアムブランド「レクサス」のフラッグシップモデル「LS400」としてデビューしました。つまり、セルシオは、トヨタが世界市場でメルセデス・ベンツやBMWといったドイツの高級車ブランドと真っ向から勝負するために生み出した、戦略的なモデルだったのです。
初代セルシオ(10系)が世界に与えた衝撃
1989年に登場した初代セルシオ(UCF10/11型)は、市場に大きな衝撃を与えました。特に世界中のライバルメーカーを震撼させたのが、その圧倒的なまでの「静粛性」と「振動の少なさ」です。
有名な逸話として、エンジンをかけた状態でボンネットの上にシャンパンタワーを組んでも、グラスが一つも倒れなかった、というものがあります。これは、新開発された4.0L V型8気筒エンジン(1U-FE型)の圧倒的な滑らかさと、徹底した振動対策の賜物でした。当時のメルセデス・ベンツSクラスやBMW7シリーズですら、この静粛性には敵いませんでした。
さらに、内外装の圧倒的な品質の高さ、滑らかな乗り心地、そして当時としては画期的な先進装備(例えば、世界初のエレクトロルミネセントメーターなど)を備えながら、ライバルよりも大幅に安い価格設定で登場したのですから、世界が驚いたのも無理はありません。初代セルシオは、高級車の概念そのものを変え、「高級車=静かで快適」という新しい価値基準を打ち立てたのです。
2代目セルシオ(20系)の熟成と進化
1994年に登場した2代目セルシオ(UCF20/21型)は、初代の成功をさらに確固たるものにするための「正常進化」を遂げたモデルです。キープコンセプトのデザインながら、中身は大きく進化していました。
さらなる高みを目指した静粛性と乗り心地
初代で頂点を極めたと思われた静粛性は、さらに磨き上げられました。ボディ剛性の向上、遮音材・吸音材の最適配置、そしてエンジンマウントの改良など、地道な改良が積み重ねられました。乗り心地も、スカイフック理論を応用した電子制御エアサスペンションの性能向上により、さらにフラットで快適なものへと進化しています。
パワートレインの強化
エンジンはVVT-i(連続可変バルブタイミング機構)を採用し、最高出力は265馬力から280馬力(後期型)へと向上。トランスミッションも4速ATから5速AT(後期型)へと多段化され、よりスムーズで力強い走りを実現しました。この2代目で、セルシオは「静かで快適なだけでなく、走りも良い高級車」という評価を不動のものとしました。
3代目セルシオ(30系)の集大成と最終モデル
2000年に登場した3代目セルシオ(UCF30/31型)は、セルシオとしての最後のモデルであり、まさに集大成と呼ぶにふさわしい完成度を誇りました。
デザインの刷新と空力性能の追求
エクステリアデザインは、それまでの角張ったイメージから一新され、流麗でボリューム感のあるものへと変わりました。これは単なるデザインの変更ではなく、Cd値(空気抵抗係数)0.25という、当時のセダンとしては驚異的な空力性能を達成するための機能的なデザインでもありました。この優れた空力性能が、高速走行時の静粛性と燃費性能の向上に大きく貢献しています。
エンジンとトランスミッションの進化
エンジンは排気量を4.3Lに拡大した3UZ-FE型を搭載。トランスミッションは6速ATが組み合わされ、さらに滑らかで静か、そしてパワフルな走りを実現しました。私もこの30系後期を所有していましたが、高速道路を巡航している際の静けさと安定感は、まさに「魔法の絨毯」のようでした。
「おもてなし」の先進装備
3代目セルシオは、先進装備の面でも他の追随を許しませんでした。世界初のレーダークルーズコントロール(ブレーキ制御付)、インテリジェントAFS(進行方向をヘッドライトが照らす機能)、スマートキーシステムなど、現在の高級車では当たり前となった装備の多くを、この時代にいち早く採用していたのです。
そして2006年、この3代目をもって「トヨタ・セルシオ」の歴史は幕を閉じ、そのバトンは日本国内でも展開が始まった「レクサス」ブランドへと引き継がれることになります。
なぜセルシオは多くの人々を魅了したのか?
セルシオが単なる高級車に留まらず、一つの「文化」や「憧れ」にまでなった理由は、その圧倒的な商品力にあります。
- 絶対的な信頼性: 「壊れない」というトヨタ車ならではの信頼性は、高級車においても健在でした。これは、頻繁に故障することがステータスの一つとさえ考えられていた欧州の高級車とは対極にある価値観でした。
- 圧倒的なコストパフォーマンス: ライバルを凌駕する性能と品質を、より安い価格で提供したこと。
- 究極の快適性: とにかく静かで、乗り心地が良い。移動の疲れを全く感じさせないその空間は、多くのVIPや経営者に愛されました。
これらの要素が組み合わさることで、セルシオは「成功者の証」として、多くの人々の憧れの対象となったのです。
セルシオが中古車市場で今も人気な理由
生産終了から長い年月が経った今でも、セルシオは中古車市場で根強い人気を誇ります。特に、完成度の高い30系後期モデルは、程度の良い個体であれば高値で取引されています。
その理由は、やはり前述した圧倒的な品質と信頼性にあります。適切なメンテナンスさえ行えば、20万km、30万kmと走り続けることができる耐久性を備えています。また、現代のクルマにはない、V8自然吸気エンジンならではの滑らかなフィーリングや、過剰とも言えるほどの物量を投入した作り込みに、今改めて価値を見出すファンが多いのです。
セルシオの後継はレクサスLS!受け継がれたDNAを徹底解剖
さて、ここからが本題です。輝かしい歴史を築いたセルシオのバトンは、どのモデルに受け継がれたのでしょうか。その答えと、受け継がれたDNAについて、詳しく解説していきます。
引用 : TOYOTA HP (https://lexus.jp/)
結論!セルシオの正統な後継モデルはレクサスLS
結論から申し上げます。トヨタ・セルシオの正統な後継モデルは、間違いなく「レクサス・LS」です。
2005年に日本でレクサスブランドが展開を開始し、それに伴い、セルシオは2006年のモデルチェンジのタイミングで「レクサス・LS460」(4代目・USF40型)として生まれ変わりました。海外では初代から「レクサスLS」として販売されていたため、日本国内の名称もグローバル基準に統一された、と考えるのが自然です。
ですから、「セルシオの後継はどの車種?」という問いに対しては、「レクサスLS」が唯一の答えとなります。
なぜセルシオはレクサスLSになったのか?ブランド戦略の背景
では、なぜトヨタは「セルシオ」という、日本国内で絶大なブランド力を築き上げた名前を捨ててまで、「レクサスLS」に切り替えたのでしょうか。
これは、トヨタのグローバルなブランド戦略が大きく関係しています。前述の通り、レクサスは元々、北米市場でメルセデス・ベンツやBMWに対抗するために作られたプレミアムブランドでした。日本ではトヨタブランドの最上級車種としてセルシオが販売されていましたが、世界的に見ると「トヨタ」は大衆車ブランドのイメージが強く、高級車市場で戦うには「レクサス」という独立したブランドが必要不可欠だったのです。
そして、グローバル市場でレクサスブランドの認知度と価値が十分に高まった段階で、満を持して日本市場にも導入されることになりました。その際、ブランドのフラッグシップであるLSを、日本でだけ「セルシオ」として販売し続けるのは、グローバルでのブランドイメージの統一性を欠くことになります。
トヨタにとっては苦渋の決断だったかもしれませんが、世界と戦うプレミアムブランド「レクサス」を日本に根付かせるためには、フラッグシップモデルであるLSの存在が不可欠であり、そのためにセルシオはその役目を終え、LSにその座を譲ったのです。
【比較】セルシオとレクサスLSのデザイン哲学の継承と進化
セルシオからレクサスLSへの移行において、デザインは大きく変わりました。しかし、その根底に流れる哲学には、確かな繋がりを見ることができます。
セルシオのデザイン
セルシオのデザインは、一貫して「威厳」と「控えめな品格」を重視していました。特に初代、2代目は、派手さはありませんが、大きく堂々とした佇まいと、クリーンで無駄のない面構成によって、静かな威圧感と知性を感じさせるデザインでした。3代目で流麗なフォルムを取り入れましたが、それでもなお、日本の「奥ゆかしさ」を感じさせるデザインでした。
レクサスLSのデザイン
一方、4代目レクサスLS(USF40型)は、レクサスブランドのデザインフィロソフィ「L-finesse(エル・フィネス)」を体現し、よりダイナミックで先進的なデザインへと舵を切りました。そして現行の5代目LS(VXFA5#/GVF5#型)では、象徴的なスピンドルグリルと、クーペのような流麗なシルエットをまとい、極めてアグレッシブで個性的なデザインへと進化しています。
一見すると全くの別物に見えますが、「日本の美意識をクルマのデザインに昇華させる」という点では共通しています。セルシオが「引き算の美学」だとしたら、レクサスLSはそこに「緻密な作り込み」や「大胆な造形」という新たな要素を加えたものと言えるでしょう。
【比較】究極の静粛性:セルシオからLSへ受け継がれる「源流」
セルシオの最大の価値であった「静粛性」。このDNAは、レクサスLSに最も色濃く受け継がれています。
セルシオの静粛性技術
セルシオは、エンジンそのものの静かさに加え、ボディのあらゆる隙間を徹底的に塞ぎ、遮音材や吸音材を惜しみなく使用することで、異次元の静けさを実現していました。特にエンジンルームと室内を隔てるダッシュパネルには、何層にもわたる遮音材が使われていました。
レクサスLSの静粛性技術
レクサスLSは、その思想をさらに進化させています。従来の遮音・吸音に加え、「アクティブノイズコントロール」という技術を導入しました。これは、室内に侵入してくるノイズの音波に対し、逆位相の音をスピーカーから出すことで、ノイズを打ち消してしまうというハイテク技術です。
また、風切り音を低減するため、フラッシュサーフェス化(ボディ表面の段差をなくすこと)を徹底し、ドアの密閉性も極限まで高められています。セルシオが物理的に音を遮断する「パッシブ」なアプローチが中心だったのに対し、レクサスLSは電子制御も活用した「アクティブ」なアプローチを取り入れることで、静粛性を新たな次元へと引き上げています。私がLSのハンドルを握って最初に感じたのも、この「無音」に近い静けさでした。
【比較】乗り心地へのこだわり:電子制御エアサスペンションの進化
静粛性と並ぶセルシオのもう一つの魅力が、「魔法の絨毯」と評された乗り心地です。これもまた、レクサスLSへと正しく継承・進化しています。
セルシオのエアサス
セルシオは、路面状況や走行状況に応じてバネレートや減衰力を瞬時に制御する電子制御エアサスペンションを搭載していました。これにより、路面の凹凸を巧みにいなし、常にフラットな姿勢を保つことを可能にしていました。
レクサスLSのエアサス
レクサスLSでは、このエアサスペンションがさらに進化しています。現行LSに搭載されている「AVS(Adaptive Variable Suspension system)」は、減衰力の切り替えを650段階という、極めてきめ細かく行うことができます。これにより、従来では吸収しきれなかった微細な振動まで抑え込み、より滑らかで上質な乗り心地を実現しています。
さらに、乗降時に車高をスッと持ち上げて乗り降りしやすくする「乗降モード」も、セルシオから受け継がれた「おもてなし」の機能の一つです。
【比較】パワートレインの変遷:V8エンジンからハイブリッドへ
パワートレインは、時代の要請に合わせて大きく変化した部分です。
セルシオのV8エンジン
セルシオの象徴は、なんといっても大排気量のV8自然吸気エンジンでした。どこまでも滑らかに、そして静かに回り、それでいてアクセルを踏み込めば力強い加速を見せるこのエンジンは、「静かで快適」というセルシオのキャラクターを決定づける重要な要素でした。
レクサスLSの多様なパワートレイン
4代目LS460は、セルシオの伝統を受け継ぐV8エンジンを搭載していましたが、同時に世界初のV8ハイブリッドシステムを搭載した「LS600h」をラインナップに加えました。これは、圧倒的な静粛性と環境性能を両立させるという、レクサスが示す新たな高級車の姿でした。
そして現行の5代目LSでは、ついにV8エンジンが廃止され、3.5L V6ツインターボエンジン(LS500)と、3.5L V6マルチステージハイブリッドシステム(LS500h)の2種類に刷新されました。ダウンサイジングターボ化は時代の流れですが、V6エンジンでありながらV8に匹敵するパワーと、モーターアシストによる極めて滑らかな走りを実現しており、これもまたセルシオが追求した「滑らかさ」と「静かさ」の現代的な解釈と言えるでしょう。
【比較】品質への執念:「神は細部に宿る」を体現する作り込み
「品質のトヨタ」を象徴するセルシオの作り込みは、レクサスLSにおいて「匠の技」としてさらなる高みへと昇華されています。
セルシオの品質
セルシオは、パネルのチリ(隙間)の均一性や、塗装の美しさ、内装部品の質感など、あらゆる点において当時の世界最高水準を達成していました。
レクサスLSの品質
レクサスLSは、その思想をさらに推し進めています。例えば、塗装は熟練の職人が手作業で水研ぎを行う工程を挟むことで、深みのある艶を実現しています。内装には、天然杢やL-ANILINE本革といった最高級の素材が使われるだけでなく、日本の伝統工芸である「切子細工」をモチーフにしたドアトリムや、「西陣織」を用いた装飾など、日本の「匠」の技が随所に散りばめられています。
このような細部へのこだわりは、まさにセルシオが源流である「完璧な品質」への執念を受け継いでいる証拠です。
【比較】先進安全技術の系譜:常に時代の最先端を走り続ける姿勢
セルシオは、常にトヨタの最新安全技術が真っ先に投入されるモデルでした。その姿勢もレクサスLSに受け継がれています。
3代目セルシオが当時世界最先端のレーダークルーズコントロールを搭載していたように、現行のレクサスLSは、高度運転支援技術「Lexus Teammate」を搭載しています。これは、高速道路の渋滞時などに手放し運転を可能にするなど、自動運転レベル2に相当する極めて高度なシステムです。常に乗員の安全と快適性を最優先に考え、最新技術を投入し続ける姿勢は、セルシオからLSへと続く不変のDNAと言えます。
まとめ
今回は、かつての名車「トヨタ・セルシオ」の後継モデルが何なのか、そしてその特徴がどのように受け継がれているのかについて、詳しくレビューしてきました。
結論として、**セルシオの正統な後継モデルは「レクサス・LS」であり、その根底にはセルシオが築き上げた「究極の静粛性」「快適な乗り心地」「完璧な品質」「最先端の技術」**というDNAが、形を変え、そして進化しながら、色濃く受け継がれています。
セルシオが「静」の魅力、つまり圧倒的な静けさと快適性で頂点を極めたのに対し、レクサスLSはそれに加え、エモーショナルなデザインや環境性能、そして「匠の技」による日本の美意識といった「動」の魅力も手に入れました。
もしあなたが、かつてセルシオが与えてくれた感動をもう一度味わいたい、そしてその進化の先にあるものを見たいと願うのであれば、ぜひ一度、レクサスLSのステアリングを握ってみることをお勧めします。そこには、懐かしくも新しい、日本の高級車がたどり着いた一つの理想郷が広がっているはずです。