EVシフトが加速する現在、自動車業界で急速に注目されているのが「E-Axle（イーアクスル）」と呼ばれるEV駆動モータ一体型ユニットです。
中でも、ニデックのE-Axleは日本国内のみならず、中国や欧州、さらには日産・トヨタといった大手メーカーからも採用される実力を誇ります。
引用 ; ニデックHP (https://www.nidec.com/jp/nidec/)
本レビューでは、ニデックE-Axleの採用メーカー・車種、他社との違い、特徴や技術的な強み、今後の展望までを徹底的に掘り下げていきます。
EV購入や開発に関心を持つ方にとって、業界の流れを把握するうえで必読の内容となっています。
記事のポイント
- ニデックのE-Axleが採用されている具体的なメーカーと車種
- トヨタ・日産など大手メーカーに選ばれる理由
- 他社製E-Axleとの性能・コスト比較
- 中国EV市場での採用実績と今後の拡大展望
以下関連記事をまとめています。参考にご覧ください。
ニデック E-Axleの他社比較｜特徴や強みまとめ
システム一体化による省スペース設計
ニデックのE-Axleは、モーター・インバーター・減速機を物理的に一体化したことで、EVパワートレイン全体の設計効率が劇的に向上する点が最大の特長です。
引用 ; ニデックHP (https://www.nidec.com/jp/technology/new_field/e-axle/)
この高度な統合は、ただ部品をまとめたというレベルを超え、熱管理や振動抑制、信号伝達ロスの最小化など、多方面にわたる性能向上に貢献しています。
パッケージングの自由度が飛躍的に向上
従来のEVでは、モーター・インバーター・減速機を別体で搭載する必要があり、設計における制約が多く存在しました。ニデックのE-Axleはこれらをひとつのユニットとして統合することで、車両全体のスペースを効率的に活用できます。結果として、キャビンの居住性やトランク容量の確保、バッテリー配置の最適化など、設計面での自由度が大幅に拡大します。
小型化による重量低減とコスト削減
一体化された構造により、各コンポーネント間の配線や冷却機構が最適化され、部品点数が減少します。これにより、組立工数の削減だけでなく、部材コストや重量の低減も実現。とくに軽EVや小型SUVなど、車両重量が航続距離に直結するカテゴリでは、この軽量化の恩恵が大きく現れます。
システム全体の熱効率改善
E-Axleを構成するモーター・インバーター・減速機は、熱を多く発生させるコンポーネントです。ニデックは一体設計により、冷却ラインを統合化・最適化しており、熱だまりを避けた均一な冷却を可能としています。これにより、耐久性の向上と高負荷時の安定稼働が実現しています。
このように、ニデックのE-Axleの省スペース設計は、単なる物理的な小型化にとどまらず、車両全体の性能最適化にまで波及する革新的な設計思想の表れといえます。
高効率と低損失のバランス
モーターの制御技術に強みを持つニデックは、エネルギー変換効率を最大限に高める独自設計を採用しています。具体的には、磁気回路の最適化、コア材の損失低減、制御アルゴリズムの高度化により、トルクの滑らかさと高効率を両立しています。
低損失化のための構造設計
ニデックはモーターコアに高効率な薄板電磁鋼板を採用し、ヒステリシス損失や渦電流損失を極限まで抑制。また、コイルの巻線方式も改良され、内部抵抗の最小化が図られています。これにより発熱が抑えられ、長時間の安定運転が可能になります。
EV全体の電力効率向上への貢献
モーター単体ではなく、インバーターや減速機との連携制御により、回生ブレーキ時のエネルギー回収効率も向上。都市部のストップ＆ゴーにおいて、電費の良さがドライバーにも実感されやすく、日常使用の快適さに直結しています。
大量生産に適したコスト競争力
ニデックは長年にわたり家電・産業機器向けモーターを大量生産してきた実績があり、その製造ノウハウをE-Axleにも応用しています。
グローバル規模の生産拠点
ニデックは中国・ベトナム・日本をはじめとする複数拠点でE-Axleを生産しており、地域に応じた部品供給と人件費最適化を行うことで、コスト競争力を維持。現地生産によりOEMとのタイムリーな連携も実現しています。
スケールメリットの活用
同一プラットフォーム上で多様な車種に対応できる設計により、部品の共通化と製造ラインの柔軟性が確保されており、スケールメリットを活かした価格設定が可能です。
開発と量産の一体管理
設計段階から量産を見越した開発体制を構築しているため、開発と製造間の齟齬が少なく、納期の短縮・不良率の低減にも寄与しています。
他社との技術的な差異
競合にはBorgWarner、Bosch、日本電産（現ニデックの前身）などが存在しますが、ニデックの最大の特長は『垂直統合型』の開発・製造体制です。
開発〜量産までの一貫プロセス
ニデックは、モーター・インバーター・減速機それぞれを社内で設計・製造することで、最適なユニット構成を迅速に構築可能。他社に依存せず、機能統合の自由度が高いため、製品ごとに柔軟な対応ができます。
高耐久・高信頼性の実績
同社製E-Axleは、過酷な温度環境・振動環境下でのテストを徹底し、車載品質における信頼性の高さを証明。EVだけでなく、将来的なPHEVやFCEVなどの多様な電動プラットフォームにも転用可能な設計思想を持っています。
独自インバーターと冷却制御
ニデックのインバーターは、SiC素子対応など次世代技術を積極採用しており、さらなる省エネ性と小型化を追求。冷却機構についても、複合冷却（オイル＋水冷）の導入などで安定稼働を支えています。
ニデックのE-Axleが採用されているメーカー・車種一覧
トヨタ bZ3（FAWトヨタ）
引用 : TOYOTA HP (https://global.toyota/jp/newsroom/corporate/40761573.html)
トヨタが中国の第一汽車（FAW）と共同開発したbZ3は、ニデックの第2世代E-Axleを搭載しています。トヨタにとってbZ3は中国市場におけるEV戦略の中心的なモデルであり、コスト競争力とエネルギー効率を両立したニデック製ユニットの採用は、その戦略の要となっています。
高効率な第2世代E-Axleの搭載メリット
ニデックの第2世代E-Axleは、トルク密度と冷却性能が大幅に向上しており、従来型のE-Axleに比べてコンパクトかつ軽量でありながら、出力と効率を両立。bZ3の航続距離を最大化しつつ、車両重量の低減にも貢献しています。
航続距離とコストパフォーマンスのバランス
bZ3はCLTCモードで最大航続距離616km（上位モデル）を実現しており、同クラスの中国製EVと比べてもトップクラスの性能を誇ります。これはニデックのE-Axleの電力変換効率の高さに加え、インバーターと減速機を最適統合した効果によるものです。
トヨタ×FAWがニデックを選んだ背景
トヨタが中国市場向けの新型EVにおいてニデックを選定した背景には、コスト競争力だけでなく、信頼性と量産実績があります。ニデックはすでに中国OEMとの連携が進んでおり、現地生産とアフターサービス体制を強化しているため、現地生産体制との親和性が高い点が評価されました。
トヨタ bZ3 諸元表
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 全長×全幅×全高 | 4725mm × 1835mm × 1475mm |
| ホイールベース | 2880mm |
| 航続距離（CLTC） | 最大616km |
| モーター出力 | 135kWまたは180kW |
| E-Axle品番 | ニデック第2世代モデル e-Axle NID200 系 |
| 車両価格（中国元） | 約16.98万〜20.98万元 |
| 車両価格（日本円換算） | 約340万円〜420万円 |
このように、bZ3におけるニデックE-Axleの採用は、単なる技術選定にとどまらず、トヨタが今後中国市場で競争力を維持していく上での鍵を握る重要な決断であると言えます。、単なる技術選定にとどまらず、トヨタが今後中国市場で競争力を維持していく上での鍵を握る重要な決断であると言えます。
日産 サクラ / 三菱 eKクロスEV
引用 ; 日産HP (https://www3.nissan.co.jp/vehicles/new/sakura.html)
日本市場で軽EVとして成功を収めている日産サクラと三菱eKクロスEV。この2モデルには、ニデックの軽量かつ高効率なE-Axleが採用されています。都市部での使いやすさと航続距離の確保という難題をクリアした点で高い評価を得ています。
サクラ / eKクロスEV 諸元表
| 項目 | 内容 |
| 全長×全幅×全高 | 3395mm × 1475mm × 1655mm |
| ホイールベース | 2495mm |
| 航続距離（WLTC） | 約180km |
| モーター出力 | 47kW（約63PS） |
| E-Axle品番 | ニデック軽EV専用 e-Axle NID060 系 |
| 車両価格（日本円） | 約239万円〜294万円 |
広州汽車 AIONシリーズ
中国の大手EVメーカー「広汽新能源（AION）」でも、ニデックのE-Axleが採用されています。特にAION YやAION Sなどの主力モデルで搭載され、信頼性と量産性の高さが評価されています。
AION Y / AION S 諸元表（例：AION S）
| 項目 | 内容 |
| 全長×全幅×全高 | 4768mm × 1880mm × 1530mm |
| ホイールベース | 2750mm |
| 航続距離（CLTC） | 最大610km |
| モーター出力 | 最大150kW |
| E-Axle品番 | ニデック中型EV用 e-Axle NID150 系 |
| 車両価格（中国元） | 約14.98万〜20.98万元 |
| 車両価格（日本円換算） | 約300万円〜420万円 |
Geely・SAIC系統の車種
ニデックは中国市場でのシェア拡大に成功しており、GeelyやSAIC（上汽集団）グループの複数車種にも搭載。コスト性能比に優れる点から、ミドルレンジのEVで特に採用されています。
採用モデルの一例（例：Geely Geometry C）
| 項目 | 内容 |
| 全長×全幅×全高 | 4432mm × 1833mm × 1560mm |
| ホイールベース | 2700mm |
| 航続距離（NEDC） | 約550km |
| モーター出力 | 最大150kW |
| E-Axle品番 | ニデック中型EV用 e-Axle NID150 系 |
| 車両価格（中国元） | 約13.98万〜18.98万元 |
| 車両価格（日本円換算） | 約280万円〜380万円 |
ニデックE-Axleの今後の展望
中国市場におけるさらなる採用拡大
ニデックは2025年までに中国市場でのE-Axle搭載台数を飛躍的に増加させることを目標としています。中国は世界最大のEV市場であり、年々販売台数が拡大する中、現地メーカーとの関係構築とコスト競争力が成功の鍵となっています。
コストパフォーマンスの高さが競争力に直結
ニデックのE-Axleは、その生産効率と価格帯のバランスにより、中国のミドルレンジEVセグメントに最適とされています。とくに、BYD、XPENG、NIOなどの新興企業が多様な価格帯のモデルを展開するなかで、ニデックの技術は「高性能だが手が届く価格」というポジションを確立しつつあります。
現地生産による納期短縮と信頼性向上
ニデックは中国国内に複数の製造拠点を持ち、OEM向けに柔軟かつスピーディな供給体制を構築しています。地産地消の体制により、部品供給のリードタイム短縮、物流コスト削減、そして緊急時対応力の高さがOEMにとって大きな魅力となっています。
政策と補助金にマッチした製品戦略
中国政府はEV普及を国家戦略の柱と位置づけており、補助金・税制優遇政策が活発です。ニデックのE-Axleは小型で高効率なことから、環境性能の高い車両として政府認証を得やすく、OEMが政策の恩恵を受けやすい製品として位置づけられています。
このように、ニデックは中国市場において、単なる技術力だけでなく、製造・供給体制や政策対応力においても競争優位性を確立しており、今後のさらなる採用拡大が強く期待されています。
トヨタとの連携強化による次世代EV展開
bZシリーズを皮切りに、トヨタとニデックの協業は加速度的に深化しています。トヨタは今後、ソフトウェア定義型車両（SDV）や電動化のグローバル標準をにらんだ戦略を進めており、その中核技術としてニデックのE-Axleが位置づけられています。
BEV専用プラットフォームとの親和性
トヨタは今後導入予定の次世代BEV専用アーキテクチャ「e-TNGA」においても、ニデックとの共同開発体制を構築しているとされます。パッケージ性や効率に優れるE-Axleは、バッテリー容量の削減や車両重心の最適化にも貢献可能であり、走行性能とコストの両立を目指すトヨタの方針と一致します。
SDV（ソフトウェア定義型車両）との連携
ニデックはインバーターやモーターの制御において高度なソフトウェア設計を採用しており、今後のSDV化において「アップデート可能な駆動システム」として機能する可能性があります。トヨタとの連携により、車両の使用後にも継続的に性能改善を行える柔軟な仕組みづくりが進められています。bZシリーズを皮切りに、トヨタとニデックの協業は今後も継続拡大が見込まれます。特に次世代BEVプラットフォームへの対応や、ソフトウェア定義型車両（SDV）との統合も視野に入れており、開発競争の中心に立っています。
軽EV分野での技術リーダーシップ確立
日本の軽自動車市場は価格競争が激しく、航続距離・性能・コストのバランスが極めて重要です。ニデックはこの分野に特化した軽量かつ高効率なE-Axleの開発を通じて、軽EV分野でのシェアを急速に拡大しています。
サクラの成功による波及効果
日産サクラのヒットは、ニデックの軽EV向けE-Axle技術が市場に受け入れられたことを意味します。特にトルク応答性の良さや静粛性、メンテナンス性の高さが好評で、他の国内メーカーにも採用の波が広がっています。
他メーカーとの今後の連携可能性
スズキやダイハツといった軽自動車大手も、将来的なEV化戦略の中でニデックのE-Axle技術を検討対象としているとの見方が広がっています。ニデックはプラットフォーム互換性の高い設計思想を持っており、他社への適応も比較的スムーズです。日本市場における軽EVでは、サクラの成功を背景に、他メーカーもニデックのE-Axleを採用する流れが生まれつつあります。特に2025年以降、スズキやダイハツのEV戦略とも関わりが深まる可能性があります。
欧州市場への本格参入
ニデックは欧州において、環境規制とEV需要の拡大を背景に本格的な市場参入を進めています。欧州ではCO2排出規制が非常に厳しく、軽量・高効率なE-Axleへのニーズが急速に高まっています。
Stellantisとの戦略的提携の可能性
欧州最大級の自動車グループであるStellantis（旧PSA・FCA連合）との間で、EV部品の供給に関する連携が進行中との情報もあります。ニデックのユニットは、複数車種への共通採用が可能なモジュール型設計となっており、大規模OEMにとって導入のハードルが低いのが強みです。
欧州特有の要求に対応した製品開発
寒冷地走行性能や高速域での連続駆動など、欧州市場特有の性能要件にも対応する設計が進められており、ニデックは欧州のEVスタンダード構築において技術面からも貢献する姿勢を強めています。ニデックは欧州でのプレゼンス向上を目指しており、Stellantisグループとの協業なども噂されています。CO2規制の厳しい欧州では、高効率・小型のE-Axleのニーズが高く、ニデックの技術力が大いに活かされる分野です。
自社ブランドでの展開構想
ニデックは従来のBtoB（企業向け部品供給）モデルから一歩進んで、将来的には自社ブランドを前面に打ち出すEVシステムの展開を検討しています。これはモジュール単体の供給から、EV駆動系の“完成パッケージ”としての販売モデルへのシフトを意味します。
E-Axle＋制御＋バッテリーの統合供給
E-Axleを中心に、制御ソフトウェアや冷却系、場合によってはバッテリー管理システム（BMS）まで含めたシステムインテグレーションを目指しており、車両OEMにとっては開発期間とコストを大幅に削減できる選択肢となります。
ブランド認知と差別化の狙い
ニデックの名前はモーター業界では広く知られていますが、完成車市場ではまだ一般的な認知度は高くありません。そこで、今後は自社ブランドの認知を高めるべく、展示会やメディア露出を強化し、最終製品の信頼性や品質を前面に押し出す戦略が展開されると見られています。将来的には、モジュール単体供給だけでなく、ニデックブランドでのシステムパッケージ販売も視野に入れているとされます。これにより、より付加価値の高い事業モデルへの転換が進む見込みです。
まとめ
ニデックのE-Axleは、国内外の有力メーカーに採用される実績と技術的優位性を兼ね備えた次世代EVのコアコンポーネントです。小型・高効率・低コストといった特性が、日産サクラやトヨタbZ3、中国広州汽車といった多様な車種で高く評価されており、今後のEV市場においてもますます存在感を増していくと考えられます。中国や欧州といった重要市場での拡大、そしてトヨタとの共同開発による次世代車両への応用など、ニデックの動向からは今後も目が離せません。
