モータージャーナリスト兼コラムニストの二階堂仁です。 今回も多く寄せられている質問にお答えしていきます。
この記事を読んでいる方は、伝説のスーパーカー、ランボルギーニ・カウンタックLP400の購入を検討しつつも、「壊れやすい」「維持が大変」といった噂に不安を感じているのではないでしょうか。 私も実際にLP400を所有し、数々のトラブルと向き合ってきた経験があるので、その気になる気持ちはよくわかります。 しかし、その不安は具体的な知識を得ることで、現実的な計画へと変えることができるのです。

引用 : ランボルギーニHP
この記事を読み終える頃には、カウンタックLP400の故障に関する漠然とした不安が解消され、憧れのスーパーカーを手に入れるための具体的な道筋が見えているはずです。
記事のポイント
- カウンタックLP400の故障神話の真実
- 部位別の具体的な故障事例と修理費用
- オーナーだから語れる維持のコツ
- 憧れを現実にするための購入ガイド

【結論】カウンタックLP400は本当に壊れやすいのか?神話と真実
まず、読者の皆様が最も知りたいであろう結論からお話ししましょう。 「カウンタックLP400は壊れやすいのか?」という問いに対して、私の答えは「イエスであり、ノーでもある」です。 これでは禅問答のようですが、この車の本質を理解するためには非常に重要な視点なのです。

引用 : Lexury Motors Journal イマージ
現代の車との比較:壊れやすいは事実だが…
現代の車、例えばトヨタのカローラやホンダのフィットのように、キーを捻ればいつでも完璧にエンジンが始動し、何万キロもオイル交換だけで走り続けられるような信頼性を期待しているのであれば、答えは明確に「イエス、壊れやすい」です。
カウンタックLP400が設計されたのは1970年代初頭です。 当時の製造技術、電子制御の未熟さ、そして何よりもパフォーマンスを最優先する設計思想から生まれた車です。 快適性や耐久性、信頼性といった要素は、現代の車とは比較になりません。 言うなれば、カウンタックは繊細で気難しい芸術品であり、日用品ではないのです。 そのため、「壊れる」というよりも「常に万全の状態を保つために、定期的な調整と整備が不可欠な車」と捉えるのが正しいでしょう。
なぜ「壊れやすい」というイメージが定着したのか
では、なぜカウンタックはここまで「壊れやすい」というイメージが強固に定着してしまったのでしょうか。 それにはいくつかの理由が考えられます。
一つは、1970年代後半から80年代にかけてのスーパーカーブームです。 メディアはこぞってその非日常的なスタイルと性能を取り上げましたが、同時にオーバーヒートで路肩に停まる姿や、エンジンから白煙を上げるショッキングな映像も世に広まりました。 これが「スーパーカー=壊れる」というイメージを植え付けたのです。
もう一つは、知識の不足による不適切な扱いです。 当時はカウンタックのような複雑な構造を持つ車を完璧に整備できるメカニックはごく僅かでした。 見様見真似の整備や、オーナー自身の誤った知識での運転が、本来なら防げたはずのトラブルを誘発していた側面も否定できません。 特に、V12エンジンが発する熱量の大きさは尋常ではなく、熱対策が不十分なまま渋滞に巻き込まれれば、オーバーヒートや電気系のトラブルが発生するのは必然でした。
個体差の重要性:整備履歴が鍵を握る
カウンタックLP400と一括りに言っても、そのコンディションは一台一台で全く異なります。 最も重要なのは、その個体がこれまでにどのようなオーナーに所有され、どれだけ愛情を込めてメンテナンスされてきたか、という「整備履歴」です。
新車時から正規ディーラーで完璧な整備を受け、適切な環境で保管されてきた個体と、複数のオーナーの手に渡り、ずさんな管理をされてきた個体とでは、天と地ほどの差があります。 後者のような個体を手にしてしまえば、「壊れやすい」という噂は現実のものとなるでしょう。 逆に、素性が良く、定期的に専門家の手でメンテナンスされてきた個体であれば、致命的なトラブルに見舞われるリスクは格段に低くなります。
所有してわかった「壊れる」の本当の意味
私自身、このLP400を所有してきて、「壊れる」ということの本当の意味を理解しました。 多くの人が想像するような、走行中に突然エンジンが停止して路上で立ち往生する、といった致命的な故障は、実はほとんど経験がありません。 もちろん、皆無ではありませんが、それは適切な予防整備を怠った場合に限られます。
実際のところ、カウンタックとの日常は、もっと細かな不具合との付き合いがメインになります。 例えば、6連ウェーバーキャブレターの同調が少しズレてアイドリングが不安定になったり、エンジン各部のシールからオイルが僅かに滲んだり、旧いイタリア車特有の電気系の接触不良でメーターの照明が点滅したり。
これらを「故障」と捉えてストレスに感じるか、あるいは「この時代の車の味」「対話の機会」として楽しめるか。 カウンタックのオーナーになるには、後者のような大らかな心構えが不可欠と言えるでしょう。
【完全網羅】カウンタックLP400の部位別・故障事例と修理費用/期間
ここからは、皆さんが最も関心のあるであろう、具体的な故障箇所とその修理費用、そして修理にかかる期間について、私の経験と取材で得た情報を基に詳細に解説していきます。 金額や期間はあくまで目安であり、個体の状態や依頼するショップによって変動することをご了承ください。

引用 : Lexury Motors Journal イマージ
エンジン関連の故障と修理費用
カウンタックの心臓部である4.0リッターV12エンジンは、官能的なサウンドと引き換えに、デリケートなメンテナンスを要求します。
キャブレターの不調
LP400のエンジンには、6基のウェーバー製キャブレターが鎮座しています。 これが絶好調の時は最高のパフォーマンスを発揮しますが、非常に繊細な部品でもあります。
- 症状: アイドリングの不安定、エンジンの始動困難、吹け上がりのもたつき、マフラーからの黒煙、特定の気筒が燃焼しない「片肺」状態など。
- 原因: 12気筒分のキャブレターの同調(バランス)のズレが主な原因です。また、長期間動かさないことによるジェット類(燃料の噴射口)の詰まりや、ガソリンの劣化も不調を引き起こします。
- 修理内容: 同調調整、キャブレターの分解・洗浄(オーバーホール)。
- 費用目安:
- 同調調整:5万円~15万円
- オーバーホール:30万円~80万円(6基全て)
- 期間:
- 同調調整:1週間~2週間
- オーバーホール:1ヶ月~2ヶ月
点火系のトラブル
キャブレターと並んで、エンジン不調の原因となりやすいのが点火系です。
- 症状: エンジンがスムーズに回らない、力がない、ミスファイア(失火)によるパンパンという音など。
- 原因: LP400は2つのディストリビューターで12気筒に点火しています。内部の点火時期を制御するポイントやコンデンサーが摩耗・劣化すると、正確な点火ができなくなります。プラグコードの劣化によるリークも原因の一つです。
- 修理内容: ディストリビューターのポイント、コンデンサー、プラグコード、スパークプラグなどの消耗品交換と調整。
- 費用目安: 5万円~20万円
- 期間: 数日~2週間
オイル漏れ・水漏れ
古いイタリア車とオイル漏れは切っても切れない関係ですが、カウンタックも例外ではありません。
- 症状: 駐車している地面にオイルや冷却水の染みができる。エンジンルームから焦げた匂いや、冷却水の甘い匂いがする。
- 原因: エンジン各部に使われているガスケットやオイルシール、ウォーターホース類が、熱や経年で硬化・劣化して気密性を失うことが原因です。
- 修理内容: 該当するガスケット、シール、ホース類の交換。漏れている場所によっては、エンジンを車体から降ろす大掛かりな作業が必要になります。
- 費用目安:
- 軽微なホース交換など:5万円~
- エンジンを降ろさずに可能なガスケット交換:20万円~50万円
- エンジン脱着を伴う修理:100万円以上
- 期間: 1週間~数ヶ月(エンジン脱着の場合)
エンジンオーバーホール(最悪のケース)
最も深刻で費用がかかるのが、エンジン本体のトラブルです。
- 症状: マフラーからの白煙(オイル下がり・上がり)、エンジン内部からの「カチカチ」「ガラガラ」といった異音、圧縮圧力の低下による著しいパワーダウン。
- 原因: ピストンリングの摩耗、バルブシールの劣化、メタルベアリングの摩耗など、エンジン内部の部品が寿命を迎えた状態です。
- 修理内容: エンジンを完全に分解し、洗浄、計測、消耗部品(ピストン、リング、メタル、バルブ、ガスケット類)を全て交換して、再度精密に組み上げる作業。
- 費用目安: 500万円~1,500万円以上。交換部品が廃番で、ワンオフ(特注)製作が必要になると、費用は青天井になる可能性もあります。
- 期間: 6ヶ月~2年以上。部品の調達に時間がかかることが多いです。
エンジン関連の修理項目 | 費用目安 | 期間目安 |
---|---|---|
キャブレター同調調整 | 5万~15万円 | 1~2週間 |
キャブレターオーバーホール | 30万~80万円 | 1~2ヶ月 |
点火系修理 | 5万~20万円 | 数日~2週間 |
オイル・水漏れ修理(軽微) | 5万円~ | 1週間~ |
オイル・水漏れ修理(エンジン脱着) | 100万円~ | 1ヶ月~ |
エンジンオーバーホール | 500万~1,500万円以上 | 半年~2年以上 |
駆動系(クラッチ・ミッション)の故障と修理費用
大パワーを受け止める駆動系にも、相応の負担がかかります。
クラッチの滑り・切れ不良
カウンタックのクラッチは非常に重く、操作にコツがいるため、摩耗しやすい部品の代表格です。
- 症状: アクセルを踏んでエンジン回転は上がるのに車速が伸びない(滑り)、ギアが入りにくい・抜けない(切れ不良)、発進時にガクガクと振動する(ジャダー)。
- 原因: クラッチディスクの摩耗。
- 修理内容: クラッチディスク、カバー、ベアリングの交換。この作業はエンジンとトランスミッションを車体から降ろす必要があります。
- 費用目安: 150万円~250万円。作業工賃が大半を占めます。
- 期間: 1ヶ月~3ヶ月。
ミッションの不調
ギアボックス本体のトラブルも発生する可能性があります。
- 症状: シフトチェンジの際に「ガリッ」という異音(ギア鳴り)がする、特定のギアにだけ入りにくい。
- 原因: ギアの回転を同調させるシンクロナイザーリングの摩耗が主な原因です。
- 修理内容: トランスミッションのオーバーホール。分解して摩耗したシンクロやベアリング、ギアを交換します。
- 費用目安: 200万円~500万円。交換部品の数や入手難易度によって大きく変動します。
- 期間: 3ヶ月~1年以上。
電装系の故障と修理費用
1970年代のイタリア車にとって、電装系はアキレス腱とも言えるウィークポイントです。
リトラクタブルヘッドライトの不具合
カウンタックの象徴の一つですが、トラブルも少なくありません。
- 症状: ライトが上がらない・下がらない、片方だけ動く、動きが異常に遅い。
- 原因: ライトを昇降させるモーターの故障や寿命、リンク機構の固着、配線の接触不良。
- 修理内容: モーターの交換やオーバーホール、リンク機構の修理・給油、配線の点検・修理。
- 費用目安: 5万円~30万円
- 期間: 1週間~1ヶ月
パワーウィンドウの故障
これも旧車の定番トラブルです。
- 症状: 窓が動かない、動きが遅い、途中で止まる。
- 原因: ウィンドウを昇降させるモーターの寿命、レギュレーター(昇降機構)の故障。
- 修理内容: モーターやレギュレーターの交換。
- 費用目安: 片側10万円~25万円
- 期間: 1週間~1ヶ月
エアコンの不調
LP400のエアコンは、元々「付いているだけ」と言われるほど効きが弱いですが、それでも動かなくなることがあります。
- 症状: 全く冷風が出ない、送風しか出ない。
- 原因: エアコンガスの漏れ、コンプレッサーの故障、ホース類の劣化。
- 修理内容: ガス漏れ箇所の特定と修理、ガスの補充、コンプレッサーやホースの交換。信頼性向上のため、システム全体を現代のR134aガス対応品に交換する「レトロフィット」も有効です。
- 費用目安:
- ガス補充:数万円
- コンプレッサー交換:30万円~
- システム一式レトロフィット:50万円~100万円
- 期間: 1週間~2ヶ月
内外装・その他関連の故障と修理費用
シザードアのダンパー抜け
カウンタックのもう一つの象徴、シザードアにも特有のトラブルがあります。
- 症状: ドアを開けても、その位置を保持できずに勝手に下がってくる。
- 原因: ドアの重量を支えているガスダンパーの寿命(ガス圧の低下)。
- 修理内容: ガスダンパーの交換。
- 費用目安: 左右セットで10万円~20万円
- 期間: 数日
燃料タンクの錆と漏れ
長期間動かさない個体に多いトラブルです。
- 症状: 燃料の漏れ、ガソリンの匂い、燃料計の不正確な表示。
- 原因: スチール製の燃料タンク内部に発生した錆。錆が燃料ラインに詰まると、キャブレターの不調も引き起こします。
- 修理内容: タンクを降ろして内部の錆取りとコーティング処理。錆がひどい場合はリプロダクション(複製)品のタンクに交換。
- 費用目安: 30万円~100万円
- 期間: 1ヶ月~3ヶ月
憧れのカウンタックLP400、購入前に知っておきたいこと
ここまで読んで、「やはり維持するのは大変そうだ」と感じたかもしれません。 しかし、正しい知識を持って準備すれば、憧れを現実のものにすることは十分に可能です。 最後に、購入を検討しているあなたへ、ジャーナリストとして、そして一人のオーナーとしてのアドバイスを送ります。

引用 : Lexury Motors Journal イマージ
カウンタックLP400の現在の相場価格
まず知っておくべきは、カウンタックLP400がもはや単なる中古車ではなく、歴史的価値を持つ「美術品」「投資対象」となっていることです。 生産台数はわずか150台前後(諸説あり)と極めて少なく、その希少性から価格は年々高騰しています。
2024年現在、カウンタックLP400の市場価格は、状態の良いもので1億5,000万円~2億5,000万円が目安となります。 完璧にレストアされた個体や、特別なヒストリーを持つ個体は、それ以上の価格で取引されることも珍しくありません。 この価格は、あくまで車両本体価格であり、購入後の整備費用は別途必要になることを覚悟しておく必要があります。
失敗しない個体の見極め方【チェックリスト】
高額な買い物だからこそ、個体選びは絶対に失敗できません。 専門家でも見極めが難しい部分ですが、最低限チェックしておきたいポイントをリストアップします。
- □ 整備記録簿の有無と内容: これまでどのような整備が、いつ、どこで行われたかが詳細に記録されているか。これが最も重要です。
- □ フレームの状態: カウンタックは鋼管スペースフレーム構造です。事故による修復歴がないか、フレームに錆やクラックがないか、専門家の目で厳しくチェックする必要があります。
- □ オリジナル度の高さ: LP400最大の特徴である「ペリスコピオ」(潜望鏡)と呼ばれるルーフの凹みや、細いタイヤ、オーバーフェンダーのないプレーンなボディなどが維持されているか。後年のモデルのパーツに交換されていないかを確認します。
- □ エンジンとミッションのコンディション: 試乗が可能であれば必ず行い、異音、白煙、スムーズなシフトチェンジが可能かを確認します。オイル漏れや水漏れの痕跡も入念にチェックしましょう。
- □ 内外装のコンディション: 塗装の状態、FRPボディのクラック、内装の破れや劣化具合を確認します。オリジナル状態を維持している方が価値は高くなります。
理想は、カウンタックの整備を専門とする、信頼できるショップに同行してもらい、プロの目で判断してもらうことです。
信頼できる専門ショップとの付き合い方
カウンタックを維持する上で、車両そのものと同じくらい重要なのが、「主治医」となる専門ショップの存在です。 購入するお店選びが、その後のカーライフを大きく左右すると言っても過言ではありません。
- 実績で選ぶ: ランボルギーニ、特にカウンタックの整備・レストア実績が豊富なショップを選びましょう。
- コミュニケーションを大切に: 整備方針や予算について、親身に相談に乗ってくれるメカニックがいるかどうかも重要です。高圧的な態度のショップは避けるべきです。
- オーナーのコミュニティ: クラシック・ランボルギーニのオーナーズクラブなどに参加し、他のオーナーから評判の良いショップの情報を集めるのも非常に有効な手段です。
良いショップとの出会いは、あなたのカウンタックライフを何倍も豊かで安心なものにしてくれるでしょう。
年間の維持費はどれくらいかかる?
購入後、年間でどれくらいの維持費を見込んでおけばよいのでしょうか。 これも個体の状態によりますが、一つの目安としてお考えください。

引用 : Lexury Motors Journal イマージ
- 税金・保険:
- 自動車税(4.0L):年額88,000円(重加算税適用)
- 自賠責保険:約2万円(2年)
- 任意保険:非常に高額。車両保険は加入できないか、できても極めて高額になるケースがほとんどです。対人・対物無制限で年間30万円~が目安。
- 保管費用:
- シャッター付きのガレージ保管が必須です。月極であれば、都心部で5万円~10万円/月(年間60万~120万円)。
- メンテナンス費用:
- 定期的なオイル交換(エンジン、ミッション、デフ):1回10万円~20万円。
- その他、突発的な修理が発生しないとしても、年間を通して各部の点検・調整費用として最低でも50万円~100万円は見ておきたいところです。
これらを合計すると、大きなトラブルがなかったとしても、年間で最低150万円~300万円ほどの維持費がかかる計算になります。 そして、数年に一度はクラッチ交換のような100万円単位の出費が発生する可能性も覚悟しておく必要があります。
まとめ
ランボルギーニ・カウンタックLP400。 それは、現代の車が失ってしまった純粋な情熱と、官能的なまでの美しさ、そして猛々しいまでのパフォーマンスを宿した、自動車史に燦然と輝く金字塔です。
「壊れやすい」という言葉は、この車の一つの側面に過ぎません。 正しくは、「対話を求め、手間をかけることを厭わない真の乗り手を選ぶ、気高きマシン」と言うべきでしょう。
この記事で解説した数々のトラブルや莫大な費用を見て、夢を諦めてしまうのは簡単です。 しかし、それらの困難を乗り越える覚悟と情熱、そして経済的な裏付けがあるのであれば、カウンタックLP400を所有することで得られる感動と喜びは、何物にも代えがたい人生の宝物となります。
この記事が、あなたの漠然とした不安を具体的な知識へと変え、偉大な夢への第一歩を踏み出すための羅針盤となれば、ジャーナリストとして、そして同じ夢を追いかけた一人のオーナーとして、これに勝る喜びはありません。